こまごまいろいろ | ナノ


22:09 文字書きさんに100のお題 31〜40


031:ベンディングマシーン(自動販売機)
ここにこれてよかった。銀細工師はひとり頷く。前いたところは、結局自分にあってはいなかった。今ならそうだとよくわかる。
まず第一に、大好きな銀になかなか触れられない環境だった。なぜなら銀は触れる必要のないものだから。何処かの誰か、銀細工師の知らない第三者から「必要ない」と断定されたものはどんどんと削られていくようなところだから。
そしてなにより便利すぎた。遠くへ行かずとも、人と接さずとも、必要なものは手に入ってしまった。銀細工師は、銀細工の冷たさは好きだが人の冷たさは好まない。彼女にとって無人の販売機を前にして三十秒で買い物を済ませるより、八百屋で十五分以上かけて野菜一つ買って行く方がずっともっと楽しい。人間関係に困らなくていい、と双子の片割れは言うけれど銀細工師はそうは思えなかった。
それに比べ"イノナカ"のなんと生きやすいことか!ここでは毎日銀細工に励み、気のいい住民と共に暮らせる。無論、前の暮らしほど便利ではなくなってしまった。しかしそもそも銀細工師にとって効率とは二の次であって、暮らしの中での優先順位は極めて低い。
だから彼女は今日も"イノナカ"を愛し、銀を遊ばせ美を求める。


032:鍵穴
「私の、閉ざされた未来への鍵を開けて!このままじゃ、私はどこにも行けないまま腐ってくだけなんだもの!!」
声を荒げてお客サマは言った。ボクは黙って頷いた。それから背負った鍵のうち一本を手に持つ。
「それでなにするの?」
「キミの鍵の鋳型を作るんだ。これを使って。」
「鋳型?」
「これをね、鍵穴に差し込むんだ。」
お客サマは、どういうこと?と、ぽかんとした顔をしている。でも細かい説明をしようとは思わない。だってそれは、お客サマに話すようなことじゃないから。
「お客サマの鍵穴は、ここだよ。」
ボクは鈍色の方の鍵を大きく振りかぶる。そしてお客サマの胸を目掛けて一気に突き刺した。


033:白鷺
さぁて、あんたのご所望の品は手にいれてきましたよーっと。いやいや早いのがうちのウリなんだから遅かったらかなわないですよぉ。あ、贋作とかじゃないんでそのへんはシクヨロ。それじゃ、そろそろ代償いただきましょーかねー……って、やぁだなぁお客サァン、お金なんていりませんよぉ。こんなはした金、ここ以外じゃどこの役にも立たないんで。代償って言ってんでしょ?だからオレはあんたのいっちゃん大事なモンもらうことにするさ。やっだなぁ〜サギだなんて言わないでくださいよぉ、これは契約ですよけ・い・や・く。最初から金を取るなんて一言も言ってないでしょ?二つ返事で依頼したのはあんたでしょ?
……あぁもううるせぇな。あんたが望んだことだ、ジタバタしねぇでおとなしくしてな。ま、暴れたとこでオレはあんたの大事なモン持ってっけど。


034:手を繋ぐ
夕焼け小焼け、あかとんぼ。歌の歌詞の続きは思い出せなかったから、鼻歌でごまかした。でもきっと男の子はこの歌を知らない。
「影、長いね。」
「そうだね。だって、お日さまの位置があんなに低いんだもの。」
「そうだね。」
石畳に伸びる影は、夕焼けのオレンジ色の鮮やかさの分だけ黒々としている。わたしの影も、隣の少年の影も、わたしたちを驚かそうとするおばけに見えた。
さぁさ、いい子はおうちへ帰りましょ。暗い夜が来る前に、怖いおばけが出る前に。わたしと一緒に帰りましょ。


035:髪の長い女
「飴屋はさぁ、ロング派?ショート派?」
「ショートだな、俺。」
「意外や意外ロング派だと思ってたのに!!」
「そうかな?ふわふわしてるから好きなんだけど。奪い屋は?」
「オレ?んーオレもショートだけどさ。あんたしっとりしたロングのが好きそうだもんふいんきが。」
「えーそんなことないよ。俺だってしっとりしてない、軽い方が好きなものもあるんだよ?」
「裏切られた気分だわーなんか裏切られたわー。」
「そんなこと言わないでよ、俺が悪いみたいじゃないか。」
「へいへい、ちょっとふざけただけですぅー。……ところでさ、飴屋、これなんの話かわかってる?」
「パスタはロングのが好きかショートのが好きかって話でしょ。わかってるよそれくらい。」
「あちゃーやっぱわかってなかったか……。」
「え、違ったの?」


036:きょうだい(変換自由)
メリーアンのまわりには、いっぱい人がいる。
トミーも奪い屋も鍵屋も夜の妖精も飴屋も人形師も銀細工師もガラス細工師も妖精屋も。みんなメリーアンとあそんでくれる。おいしいものをわけてくれる。だからメリーアンはみんなが大好き。
でもトミーの大好きと奪い屋の大好きはちがう。奪い屋の大好きと鍵屋の大好きはにてる。そのちがいがメリーアンにはよくわかんない。
あと前にトミーがいってた。みんな、おにいさんおねえさんみたいなものだからね、って。みんなメリーアンのことをいもうとだと思ってるんだって。
ねぇ、おにいさんおねえさんって、なにかな。いもうとって、なにかな。
ほんとはトミーにききたかったけど、きかなかった。そしたらきっと、トミーはまた悲しそうな顔するんだもん。


037:スカート
膝上のスカートを履いて家から出たのは、これが生まれて初めてだった。から、最初は足がとてもスースーした記憶がある。それでも、私はものすごくわくわくした女の子の気持ちになれた。


038:地下鉄
あぁ、嫌だ。奪い屋がにたにた笑いながら僕の前に立っている。にたにた笑いで有名なチェシャ猫だって、もっとまともに笑うのに。
「オレにしても、郵便屋にしても、さ。やってることってなかなかアンダーグラウンドなお仕事だよねぇ。」
世間話でもするかのような、軽薄な声だ。しかもそれが苛立ちを覚えるような内容だったんだから僕も怒気を含ませて言ってやった。
「君に同族意識を持たれるなんて、真っ平御免だね。」
「オレは奪ってあんたは届ける。そのちがいなんてほんのちょっこーっとのもんじゃね?」
こいつは飄々としてるようで裏側にはなにか、黒くてどろっとしたコールタールに似たものがある。僕には到底理解できない闇が。そしてごくたまに、やつの小さな瞳にその片鱗が映るのだ。
「ほんとは、郵便屋だってわかってるくせにさぁ。認めろよ。」
暗闇にいる猫の目みたくいやに光る奪い屋の常盤色。ふと、僕の目の色も若草色だったことを思い出して、不快になった。
「君にだけは言われたくないね。」


039:オムライス
「あああ……お米が、食べたい。」
ぐってりと机に伏しながら呟く。これは心からの思いだった。日本人なら誰しもが抱くお米への渇望がつい、溢れ出してしまったんだ。
お米ならなんでもいい。白米でも玄米でもなんでも。とにかく私は今とてもお米が食べたい。
「じゃあ、オムライス食べる?」
「え?」
思わず聞き返した。メリーアンは机に頭を乗せじーっと私を見つめている。
「メリーアン、オムライス作れるの?」
「んーん。トミーが作れるのよ、オムライス。」
なるほど納得。
でも郵便屋にオムライスをたかるのはさすがに気が引ける。せめてお米の入手先と炊き方だけは教わろう、と密かに心に誓った。


040:小指の爪
「動かないで、頼むから。」
膝の上の幼子に声をかける。すると幼子は律儀にも背筋を伸ばして動きを止めるからたまらなく愛おしい。別に、僕に背を預けてくれてかまわないのに。
僕の手の中にあるメリーアンの指はふっくらとしていて白い。そしてよく見てみるとその先端の爪は丸く、ぎざぎざした噛み跡がある。僕は爪切りを持ち替えて、小指の爪にやすりをかけ始めた。
「爪は噛むなといつも言っているだろう?」
「はぁーい。」
彼女が、空いている方の手をあげて返事をするものだから。ついつい笑ってしまった。


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