こまごまいろいろ | ナノ


19:14 文字書きさんに100のお題 11〜20


011:柔らかい殻
「ゆでたまごおいしく作れないんだよね、ぼく。」
「え、人形師、ゆでたまご作るの?」
「ぼくだってゆでたまごくらい作る。でも、いつも茹ですぎちゃうんだ。」
「あー、人形師ぼーっとしてるしね。」
「飴屋に言われると、なんだか変な感じ。」
「なぁにそれ。」
「飴のことばっかり考えてるきみと、人形のことばっかり考えてるぼく。あんまりちがわないんじゃない?」
「んー……それは、どうだろなんだろうね。確かに飴は好きだけど、人形師の人形のようには執着してないよ?」
「そうなの?」
「うん、そうだよ?」


012:ガードレール
鍵屋の目は不思議。まんまるで子どもらしいのに、同じ年齢の子供よりもっと深い色をしてる。無邪気に笑っているのに、目の奥にはどこかちがう世界の光が生きているような。
仕事をしている彼を遠巻きに見ていると、やっぱりそう感じてしまう。彼は自分の背丈よりずっと大きいお客さんから見下ろされながら店先で接客していた。お客さんの様子から見るに、なにかクレームをつけられているみたい。小さな男の子に迫る大人なんて格好が悪いと思うし、夜の妖精としては止めに入りたかった。けれども鍵屋は仕事中。間に入るのは鍵屋に対する無礼にあたる。
「ボクは鍵屋であり詐欺師だよ。ボクが詐欺師なんじゃない、鍵が詐欺師なんじゃない、お客サマが、ボクを詐欺師にするんだ。」
鍵屋は堂々とした態度で大人にこんな言葉を話す。わたしなんかよりもずっと落ち着いていてすごいなーと思う。
あぁでも。あのお客さんが鍵屋に手を出すのならとめなくちゃ。わたしは子供の庇護者としてそれを見逃すわけにはいかない。そろそろ、わたしの出番かしら。


013:深夜番組
「最近の子はテレビにかじりついてて、あんまり早く寝ないから困っちゃうのよねぇ……。」
最近の子、という言葉に私の心臓は跳ねる。テレビ見てないで早く寝なさいなんて言われる年齢でもないのに。まして夜の妖精に寝かしつけられる年齢でもあるまい。それに"イノナカ"にはテレビもないし。それらしい笑みを繕って私は手を振った。
「やだ、そんなおばさんの小言みたいな風に言わないであげて。」
「あら失礼ね。これだから最近の子は、なんてまたおばさんみたいなこと言っちゃうわよ。」
彼女は冗談めかして言う。子供の相手が仕事の夜の妖精は、多少の『おいた』になら笑って目をつぶってくれる。つまり子供扱いされてることになるんだけど、私はその感覚は好きだった。
「私も小学生の時はちゃんと九時半に寝てたんだよ。」
「アイリスはいい子だったのね、昔から。」
「昔は、の間違いじゃなくて?」
「間違いじゃないわよ、アイリスはとってもいい子なんだから。」
この年齢の私を褒めてくれるひとは、そうそういないのだから。照れ臭くてこそばゆいけど、私は心底嬉しいと思う。


014:ビデオショップ
"イノナカ"に住む、二人の子供。彼らは膝を折った案内屋より小さい。それでも、案内屋は簡単の声を上げずにはいられない。
「大きくなったね、メリーアンも鍵屋も。」
「えへへー、そうかな!はやく案内屋くらい大きくなりたいな!」 「?ボクはよくわかんないや。」
「私は全部覚えているのだからね。君たちがここへ来た時のことまで、全部。」
それこそ、録画した映像のように鮮明に。
君たちが大きくなった時、君たちの昔話を洗いざらい話してあげよう。


015:ニューロン(精神機能を営む構造体)
いつからそこに彼がいたのか、それを知る者はいない。ただ彼は昔からそこにいた。それだけである。
奇怪な頭部とそれに見合った長身痩躯。初めて彼を見る者には化け物か妖怪の姿に映るだろう。話してみれば穏やかで優しくはあるものの、こちら側にどこか恐怖をのこすような性格だ。ランタンの内側とは、奥底の見えない井戸の闇に似ているもので。そして闇に怯えるのもまた生物として至極当然の摂理と言えよう。
それでも慕われ頼られるのは、彼が光を灯すランタンだからである。彼の頭で揺れる炎は青く、皆の心を穏やかにした。ひとの心は青い灯りに呼び寄せられ、誰もがその恩恵に預かる。
暗いはずの井の底を照らし出せる彼の存在がなければ、"イノナカ"は回らないだろう。彼がこそ"イノナカ"を最も愛し、大切にしている。"イノナカ"の住民は彼の光の庇護下にあると言っても過言ではない。


016:シャム双生児(腰が接合した二重胎児)
「……なんだそれー。って、趣味悪いなぁ。」
人形師の手元を覗き込んでの台詞であった。勝手に覗き込んでおいてその言い草はない、と郵便屋あたりは彼をたしなめるだろう。
「おや、奪い屋にそう言われるとなんだか傷付くね。」
しかし、人形師当人は片方の眉を釣り上げるのみに終わった。どうも、例の『スイッチ』がはいっている状態らしい。
人形師の手の中には陶磁器で作られた人形。ちょうど女児が遊びに使うくらいのサイズだ。それは人形師の作品の例に漏れず美しい造形のものであったが、決定的に他のものとはちがう。
彼の手の中の人形には、二つ頭がある。二つ胴体がある。しかし腕は二本である。足も、二本である。人形は一体しかないとも、二体あるとも言い難かった。二つの人形が肩のあたりで結合し、ひとつの胴体に結合しているのだ。
「なんでそんな奇形の人形なんて作ってんの。依頼?」
「いいえ、わたくし自身の趣味ですよ。このような人形に邪悪さはありません、これを見て邪悪だと感じるものの心に悪は眠っているのです。」
意味深長に、人形師は笑う。いつもながら理解できないと奪い屋の興味はじきに別のものへ移ろった。


017:√(ルート、平方根)
「郵便屋って優しいよねー。」
カウンターに頬杖をついたままの奪い屋が言った。彼に郵便屋が構わないのは相手をしたところで無駄だと知っているからだろう。帽子の下にある、色違いの瞳は彼を見てはいない。
「だってさぁ、こんな風にオレが押しかけたってなんにもしないしさぁ?」
「君はなにかしたって押しかけてくるだろ。無駄な足掻きはしたくないんだよ。」
ぶっきらぼうで、感情のこもらない声。それでも奪い屋は口を歪めて笑う。なんだかんだ言ってこうやって相手をしてくれるんだから、構ってしまうのに。


018:ハーモニカ
「これ、ハーモニカ?」
「どれのこと……?あぁ、それねぇ。貴方、ハーモニカふけるのぉ?」
「いやふけないよ。でも小道具としては、興味があるんだ。妖精屋はふける?ハーモニカ。」
「ん〜ん。私歌以外はからっきしよぉ。」
「でも、歌えるんだ。羨ましい。」
「そうかしらぁ、私は貴方みたいに人形は作れないのよ〜?」
「そう。だけど、歌は歌えた方がいい。劇やるときに映える。」
「なるほどね〜。」
「歌の代わりになるもの、探してた。」
「貴方のお望みの品があるといいわぁ〜、どうぞごゆっくりぃ。」


019:ナンバリング(番号を振ること)
ひとつ、三番、ふたつ、八番、みっつ、十二番。
飴の詰まった瓶を、種類ごとに分類していく。商品にして作品でもある飴たちが陳列される棚は、俺の中のルールによって整頓されている。
ジャムよりも甘くて舌もとろけるポップな見た目の飴、食べると透き通った色と同じくらいすっとする飴、果実の鮮やかな味が凝縮されたカラフルな飴。どれもこれもこうやって瓶に詰めてみたら、ほら、キラキラして宝石みたいだ。もちろん、味の保証もバッチリできる。
瓶にはってあるラベルの文字も飾り文字にして、見栄え良く。見た目だって綺麗にしてあげなくちゃ。できるだけ飴に似合うように飾り立ててお客さんに見せたい。
俺の飴を食べたひとは、みんな幸せそうに笑ってくれる。だから俺はまた飴を作るんだ。前より綺麗に、前よりおいしく、って思いながら。だからなのかもしれない、ここに来てからは前よりずっともっと飴が好きになった。あぁ幸せだなぁ。と、ぼんやりと感じられる日常が俺は愛おしくてならない。


020:合わせ鏡
銀細工師の手の中のには、円形状のちかちか光るものがあった。なんだろうかこれは。わからないけれどとてもきれいだ。メリーアンはぱちくりまたたく。
「わ、まぶし。」
「そりゃ、鏡だもん。光反射したらまぶしいよ。」
彼女がかざして見せたものは鏡らしい。鏡というと洗面台にあるあのような大きなものではないのか、メリーアンにはよくわからないようだった。複雑に曲線を描いた細工のあるコンパクトなんて幼い彼女の目に触れる機会がなかったのだ。メリーアンは身を乗り出して銀細工師の手の中を覗き込む。知らないものへの興味は溢れ出るばかりだ。
「すごい!!とってもきれい!」
「へへーんそうでしょそうでしょ!私の作品の中のいっちばんの自信作なんだから!!」
「うん、すごいよ銀細工師!」
メリーアンの言葉を銀細工師は素直に受け取り喜んだ。当然だ、彼女には自身の仕事に対する自尊心がある。銀細工師は女性だが職人気質に近いものを持っている。彼女は豊かとは言い難い胸を誇らしげにそらす。
すごいすごいと繰り返すメリーアンと得意そうに頷く銀細工師。どちらが幼い子どもか、もうわからない。


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