ツイッターなどでつぶやいたコネタ置き場。
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【細すぎる手首】


もう随分前の話、だ。

俺は彼女を思って、想って、それを伝えて、同じような想いを伝えてもらって。
ようやく恋仲になった。
そして年頃の男女がそういう仲になれば、最終的に辿りつくのはひとつで――

「三郎?」

どうかした、と朧が俺の顔を覗き込んできた。
心配そうに眉尻を下げた表情に、俺はなんでもない、と微笑んだ。

「ちょっとな、昔思い出してた」
「昔っていつぐらいのこと?」
「んー、だいぶ昔かな」

きょとんとして聞き返す彼女に曖昧に答える。
その回答が気に入らなかったのか、彼女は少し拗ねたような顔をしてぷい、と俺から顔を背けてしまう。

「そう。じゃあ、私はわからないわね」

たしかにそうだよな、と俺は苦笑する。

俺が回想していたのは、もう何百年も前のことだから。
所謂俺の、前世の話。
そして、彼女の前世の話でもある。

あのときの彼女は今と違って、こんなに表情がころころ変わらなかったし、言葉も少なかった。

俺以上に訓練された肉体と技術で、人の命を絶つ術に長けた少女だった。

それでも心惹かれてしまった俺は、あしらわれつつも声をかけ続け、傍に居続けて。
ようやく、彼女と恋仲になった。

そしてそれは、今でも変わらない。

あのときの記憶を彼女は持たないけれど、ある意味よかったと思っている。

なぜなら、彼女は暗殺者だったから。
そのことを受け入れてはいたものの、手にかけてきた人間について悔んでいることも、俺は知っていたから。

「朧」

俺は彼女の名前を呼ぶ。

「なに」

その声は、昔と変わらない。


けれど変わったこともある。


「よし、アイスおごるから機嫌直してくれ!」
「え、ちょ……」


彼女の手首を掴んでずんずんと歩き出す。


ああ、細い。


前の彼女も、それはたしかに細かった。
しかし、人を確実に正確に的確に殺すことを仕込まれていたこともあって、今とは違っていたのだ。


それに気付いたのは、つい最近。
今生で俺と彼女が付き合い始めてから。

昔を、より鮮明に思い出してから、だ。


当時の俺達は、まあ、やはり付き合っていたのだから最終的には行きつく行為もちゃんとしてて。

俺は、彼女の手首を掴んで組み敷いたことも芋づる式に思いだしていて。

そのときの感触も、思い出した。


それは、今の彼女と違ってしっかりとしていて。
たしかに男の俺よりも細いものだったけれど、筋肉や骨の付き方が違っていて。


今とは、違っていた。



俺はそれを、よかったと思う。
この感触は、彼女がまた、あんな思いをしなくて済んでいる、ということだから。



「……昔のことはもういいの?」
「ああ。ごめんな」



不安げに俺に視線を送る彼女。
素直に謝って、握った手首をまた強く握る。



この細すぎる手首が、俺にはとても愛おしい。



でもそれを伝えることはできないから。


「何のアイスがいい? ガリガリガリくんとか超カップとか……」
「ハーゲンダッシュ」
「え」
「ハーゲンダッシュがいい」


拗ねたままの彼女に、しょうがない、と。
俺は財布の中身と相談しながら「1個で勘弁してください朧さん…」と情けない声を上げた。



(おれはこの手を離さない)

Jun 15, 2014 00:20
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