災厄は何の前触れもなく訪れた。
 クラピカが旅立ってから数週間が経っていた。あの日以来、ずっと目を閉じたままでいる。それでも瞼の隙間から入り込む光がこれ以上なく神経を揺さぶった。ああ、いっそこの目を抉りとってしまいたい。でも、そんなことをすればクラピカが悲しむ。葛藤と戦いながら迎えた何度目かの夜。この日はいつもと何かが違っていた。集落の方が妙に騒がしい。祀り事だろうか。遠くの喧騒が時より断末魔の叫びのように聞こえてくる。だが暫くすると何の音も聞こえなくなった。不自然なほどの静寂に不安が高まる。一体どうしたというのだろう。
「!」
 遠くから足音が聞こえてきた。足音はひとつじゃない。ふたつ、みっつ、よっつ……数えているうちにどんどんこちらに近付いてくるのが分かった。
「お、ここか?」
 唐突に耳に届いた声に悲鳴が上がりそうになった。低く、威圧的な男の声。村人じゃない。いったい誰?
「団長ー! これぶっ壊していいかー?」
 次の瞬間、とんでもない轟音と衝撃が襲ってきた。もう一度強く目を瞑り祠の奥へと逃げ込む。こわい。こわい!
「お! 誰かいるぞ!」
 地を割るような声に身が竦む。
「ほら言っただろ! 人の気配がするって!」
「カーっ! まったくとんでもねぇなお前の嗅覚は!」
「まさに犬並ね」
「言ってろ! この眼は俺ンだからな!」
 複数の人の声。皆、高揚しているのがわかる。まるで宴の後のように。
「ひッ!」
 大きな何かに体ごと鷲掴みにされたのが分かった。そのままずりずりと引きずられ足に刺さるような痛みが走る。同胞たちの亡骸に引き止められる錯覚に陥った。
「なんだよガキじゃねぇか」
 上から降ってきていた声が、今度は下から聞こえてくる。苦しい。腹の圧迫感で内臓が出てきてしまいそうだ。
「うわ! なんかきったないなそいつ!」
「その様子じゃ監禁されてたね」
「同族でか? こんなガキを?」
「この子本当にクルタ族かしら」
「そうなんじゃない? 服装はさっきの奴らと似てるし」
 さらに人の声が連なる。知覚したことのない感覚が洪水のように押し寄せて頭が爆発しそうだった。
「なんだぁ? 寝てんのかこのガキ」
 圧迫感が強まって骨が軋む。痛みが全身を襲った。ああ、殺されるのか。こんなところで。でも、生きていたところで何だというのだろう。ずっとずっとひとりきりで。つらいだけじゃないか。それならばいっそ、
「目を開けろ」
 今まで聞こえたきたどれとも異なる声が、落雷の直撃のように脳天を襲った。絶対的なその声に導かれ目を開く。誰も介入したことのない眼球に見知らぬ男が映り込んだ。男の名はクロロ=ルシルフル。のちに知ることになるその名は、私にとって一生忘れられないものになる。

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