生まれた時から暗闇の中だけで過ごしてきた。
「アテ、おはよう」
 声をかけられて体を起こす。ああ、朝なのか。今。
「おはようクラピカ」
 声が聞こえた方向に返事をする。すると、指先に何か触れる気配があった。その何かを恐る恐る掴む。この感触はパンだろうか。
「ありがとう」
 再び礼を言う。口に含むとライ麦の風味が広がった。パンで正解だ。
「寒くない?」
「うん大丈夫。昨日クラピカがこれ持ってきてくれたから、あったかいよ」
 肩にかかっている布らしきものを摘む。この布がどんな色をしてるのか私には分からない。そもそも色というものさえも知らない。生まれた時から目が見えないからだ。いや、正確には視力を奪われる呪いをかけられているらしい。私は忌み子だから。
「それならよかった」
 穏やかな口調でクラピカは言った。彼は今年の私の世話係だった。賢くて優しい彼が好きだ。来年もクラピカだったらいいのに。
「いつもありがとう」
 笑ってそう言えばクラピカが息を呑むのが分かった。優しい彼は感謝されることに罪悪感を覚えてしまうのだろう。そんなこと気にしなくていいのに。クラピカは悪くないのだから。
「クラピカ! 昨日の続きを話してよ」
「……あ、あぁそうだな! えーと、どこまで話したっけ…」
 クラピカは森に迷い込んだシーラという女性から聞いた話を教えてくれた。ハンターという仕事に付いている彼女は外の世界のことを教えてくれるらしい。その刺激的な話をクラピカは面白おかしく話してくれた。その時間が私にとって何よりの宝物だった。


 少数民族であるクルタ族には独自の風習が無数にあった。そのひとつが血族の人間同士の間に生まれた双子の片割れは忌み子になるというものだった。その忌み子になった片割れが私だ。『忌み子は殺すべからず。されど生かすべかず。』その掟によって私は視力を奪われ、村の奥にある祠に幽閉されている。殺さず生かさずというのは、死んだように生かされるという意味だ。その事を教えてくれたのは村人ではない。かつてこの祠に幽閉された忌み子たちの記憶だ。この場所で生涯を終えた忌み子の記憶は次なる忌み子に引き継がれていくものらしく、私は0歳の時から膨大な記憶を宿すことになった。それがちゃんと理解できるようになったのは最近だけれど。受け取った先代の忌み子たちの記憶はひたすらに孤独で、悲しみに満ちていた。 誰一人として光を見る事なく生涯を終えている。きっと私もそうなるのだろう。でも、もし次にこの業を背負う者がいるとするならば、外の世界を教えてくれた優しい少年との記憶も引き継いでいって欲しい。その記憶が、果てしない暗闇の中のたったひとつの光になるのだから。

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