何でだよ、と俺は心の中で悪態を吐いた。
誘って来たのは確かに翠花一人だった…なのに、いざ祭りに来てみると余計なのが二人も付いて来た
いや最初から薄々気づいてはいた、もし本当に翠花が誘うとするなら俺なんかじゃなく八戒だろうから


「自分で考えててムナシーな、これ」
「何が?」
「いんや、こっちの話 それよりあの小動物コンビは何処行った?」
「悟空とジープならあっちで金魚すくいしてるよ」


大勢の人間が行き交う道の端から翠花が差した処を見れば、確かに二人の後ろ姿が見える
街の生誕祭だという祭りは露天の種類がまちまちで中には祭りとはかけ離れた露天もあるが、人の活気があってまるで長安を思い出した。

面倒臭がりな坊主のお世話にと八戒は宿に残ったが、まぁ偶にはこういうのも悪くはないだろう


「悟浄、綺麗なお姉さんがいても付いてっちゃダメだからね はぐれたら見つからないだろうし」
「流石に俺もコブつきでナンパはしねーっての」
「どうだかー」
「大丈夫だっつーの、それに翠花チャンが居てくれるんなら俺はそっちの方がいーし?」
「…何ソレ」


意味が分からないという様に眉を寄せた翠花に俺はただ『デートみたいデショ』と軽く笑って、まだ金魚すくいに夢中になる悟空とジープを見やる
すると不意に翠花は深いため息を吐いてから


「悟浄のナンパが成功しない理由が良くわかった気がする」


そんな酷く失礼な言葉を吐き出した。
翠花はそのまま金魚すくいをする二人の元へと駆け出す
その背を見ながら不意に苦笑が漏れた。
だってそうだろう、前までならそんな安い上辺口上でも翠花は変に意識して自分を楽しませてくれたのに今は違う
それは彼女が自分の好意にちゃんと気づいているからかどうかは分からないけれど…

ゆっくりと変わる予感と焦燥感、でも悪くはない。


「あ!翠花 見て!!」
「ジープ金魚すくいめちゃくちゃ上手いんだぜ!全然破れねーの!!」
「うわー本当だ、いっぱい掬ったね」
「翠花もやる?」
「うーん、せっかくだしやってみようかな」
「んじゃ勝負しよーぜ!!」
「いいよ」


ジープが立ち上がって、悟空の隣に翠花が屈む
それを見ていたら何だか改めてアイツもまだ子供なんだと思う。
聞き分けいいし、考え方が大人びているから時々忘れてしまうけれど翠花は悟空より一歳年下なのだからあたり前か…俺がそんな事を思っていた時だった。
不意に服の裾が引かれて、何かと視線をおろせば金魚を一匹袋に入れてもらって嬉しそうに笑うジープがいて


「悟浄!金魚おじさんにもらった!!」
「おー、何だそんなにいっぱい掬ったのか?」
「うん!」


屈託なく笑うジープに自分の頬も緩む反面、思う事もある。
あの露出狂の神が言っていた期限までは後二日、此処までこうして共に過ごして来てみたが、特に何という変化は特になかった。
何というか最初はそれこそ何か理由や何かあるからジープは人になったと思っていたのだが、結局人になった理由も意味も全くわからない


「なぁ…ジープ」
「キュウ?」


こんな事を聞いたって無駄なのだと分かっている。
だってコイツはあの神に人にされたのだから…ただの被害者だという事もある
それでも


「お前が人間になった理由って何だ?」
「キュウ…?」
「何か伝えるため…とかじゃねーのか?」
「……」
「例えば、翠花に…とか」


それまでボーっと意味がわからないという様にただ俺を見ていたジープが翠花という名前にピクンと反応を示した。
半ば当てずっぽうで言ったのだが、どうやら案外ハズレではないらしい

それなら何故言わない?
そんなの決まってる
怖いから、だ。

きっと言ってしまった後に来るリアクションがわかるから、だから怖い…たしか自分もそうだった。
だから俺は俯いてしまったジープのその銀色の頭を少し乱暴に撫で回して


「大丈夫だ、まだ二日あるんだろ?」
「…きゅー」
「シケた面すんなっての」


ただ、この小さな気持ちが最後の日までに彼女に届けばいいと、心から思った。




【To be continued....】

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