16.真夜中
昔…という程には前じゃないけど、旅を始めた時はよく夜中に眼が覚めて自分の置かれている状況が良く判らなくなったりしたものだ。
でもそれはもう最近では殆ど少なくなって、逆に何時も違う天井や空を見上げるのが普通になっている。
しかし、だ…
「そうは言っても流石にこれはちょっとなぁ…」
呟いた私の傍らには、朝日を受けてキラキラ輝く金髪。
何時もの鋭い紫暗の瞳は閉ざされているが、いつ開くか判らない
だから私は一刻も早く逃げ出したいのに…幸か不幸か三蔵の腕は私の腰を背後からがっちりホールドしていて動けない。
おまけにすぐ後ろに超美形の寝顔があるもんだから、何だかドキドキして来てしまってたまったもんじゃない。
でもこれは私が悪いのだ…いや、正確に言えば寝ぼけた私が悪い。
昨日の真夜中にトイレへ行って、自室へ帰って来たつもりがどうやら完全に間違えていたらしい。
これまでも悟空や八戒の部屋と間違った事はあったのだが、三蔵と悟浄の部屋だけはなかったのに…しかもよりにもよって一番怖そうな方へ間違うなんて…
「と、とりあえず脱出が最優先ね」
私は半ば半泣きになりそうになりながら、ゆっくりと三蔵の腕を解く
その最中、私は心の中で金輪際、真夜中にトイレなんて絶対行くもんかと固く心に誓ったのだった。
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