小さい犬を拾った


それはまだまだ幼くて、前に拾った猫よりも華奢で線が細く毛並みが奇麗な犬

だけれども


「――――な」
「あ、お帰り」
「とっきー遅ーい」
何だよコレーーーー!!?


どうやら同居人の猫には納得がいかなかったらしく、帰って来て早々にそんな風に叫ばれた


「何って、時任も知ってるでしょ?オトナリの葉月…」
「いや!そーいうンじゃなくてッ 何でその牡丹がこんな時間に此処にいんだって事!!」
「何でって…話せばちょっと長くなるんだよね」
「でもまぁ、結論から言うと今日から私は此処に住む事になったの」
「…………は?」


まぁ、唐突すぎるし考えられる反応ではあった
だから時任の居ない間にこうして話を収めたっていうのもあるけど…まさか此処まで驚くとは思わなかった

隣に座った牡丹が呑気に『そういう訳だから一つ宜しくー』と可愛い顔で笑って、濡れ髪をタオルで拭う
その姿を見て時任はあからさまに眉を寄せると『お前なぁ!?』と声を荒げた


「へ、とっきー何怒ってんの?」
「何じゃねー!自分の今のカッコちゃんと見てみろッ」
「……カッコ…久保田さんのワイシャツだけど?」
「………ッ」


さも当たり前の様にあっけらかんと言われた言葉に時任は更に不機嫌を募らせる
しかし、此処で一つ訂正しておくべきは俺のワイシャツを彼女が着てるから、ではなく


「〜〜〜野郎二人の部屋にワイシャツ一丁で居るのがおかしいつってんだよ!!!


つまり、そういう事だ。
いくら服装に頓着しないとはいえ流石にこれはマズい、と
常識が少しばかり欠落してる時任に正されるくらいだから彼女も実は常識が欠落してるんじゃないだろうか。


「え、だってお風呂上がりだから暑いんだもん」
「あ・つ・く・て・も!下をはけ下をッ」
「聞いといた方がいいと思うよ 牡丹ちゃん」
「……むー…」


暑いのに、だとかぶつくさ言ってはいたが彼女は漸くズボンに足を通した
俺は少し疲れた表情で佇む時任の荷物を取ると『お疲れ様』と苦笑を漏らす、けれど返って来たのは何やら恨めしそうな表情で


「久保ちゃん…わかっててやってるだろ」
「……さぁ?」


誤魔化しはしたけれど確信を突かれて酷く驚いた
まさかバレていたとは…

確かに彼女を引き取るとなった時、きっと時任は今まで以上に振り回されるんだろうと思った
思って居ながらでも引き取ってしまった…


何故?
時任のため?
コイツがあのコを気に入ってるから?


「っていうか、何でまた久保ちゃんが引き取ったんだよ 親戚とかなら居るって前に言ってたじゃん」
「うん…そうだね―――」


いや、違う


「でもきっと美人になるよ、牡丹は」
「は?」
「時任は見たくない?」


気に入ったからだ、俺が。


「――――見たい」


犬を拾った
今はまだ幼く弱々しい犬だけれど、きっと…





(たとえ結末が変わらなくても)




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