『とっきー、ちょっと来てー!!』なんてキッチンから声がしたからゲームを中断して振り返ってみれば、甘ったるい匂いがこれでもかと充満していた。
いや、さっきから薄々気づいてはいたのだが。
「何やってんだよ 牡丹」
「いーから、ちょっと手伝って」
「手伝うって…」
「ここ押さえてて!」
ペタペタと近寄ってみれば、彼女の前には赤と青の二つの包装紙の上に箱が置いてあって、その片方…赤い包装紙で包んだ箱の片側を押さえてて欲しいと言うので、少し不満はあったけれど大人しく手伝う事にする。
そうして押さえていると、牡丹がリボンを持って来てクルクルと器用に包みに巻きつけて、あっという間に結んでしまう。
そんな様をまるで魔法みたいだな…なんてボケッと見ていると
「はい、完成 ありがと」
「え?もういいのか?」
「うん ありがとうね」
そう言われて、じゃあもう片方の箱はどうするんだと思っていたら…赤い方とは違う包み方をするらしく、少し悪戦苦闘していて
何となく手持ち無沙汰だった俺が何かする事はないかと問えば、リボンを取って欲しいと言われたので側にあったリボンを出して渡してやった
その時ふと…本当に不意に思った
この包みの中身は何なのだろう…と
そして、この包みは一体誰に渡されるものなのだろうか…と
「ありがと…っと、これでいいかな。」
「なぁ…」
「ん?どうかした?」
「これって何なんだよ?」
わからないものは悩んでたって仕方ない。
素直に聞いてみようと思って尋ねれば、牡丹は俺の顔を見て『とっきーは知らない?』と良くわからない質問をして来たので『何が?』と問い返してみれば…
「バレンタインデー」
「…バレンタインデー……?」
何かどっかで聞いた事があると思って悩んでいたら、鼻先を甘い匂いが掠って思い出した。
そう言えば前に久保ちゃんがバレンタイン限定のスイーツだとか色々買い込んでたから『バレンタインって何だよ』って聞いたら『女の人が好きな男の人とかお世話になってる人にチョコレートを渡す日』だって教えてくれた気がする。
自分には縁はないだろうからすっかり忘れていたけれど…
「バレンタインはね、女の子が好きな人とかお世話になってる人にチョコレートを渡す日なんだよ」
「…ふーん……」
「と、いうわけで!とっきーにはコレね」
「え?」
好きな人とかの下りが少し引っかかって、素っ気ない返答を返したのに牡丹はそんな事は気にも止めずに赤い包みを手に取ると、そう言って俺の方へと差し出した。
一瞬、本気で言われた言葉の意味を掴み損ねたが、目の前の牡丹が『甘いの嫌いだった?』なんて不安そうに問うて来たので、慌てて『大丈夫だ』と言ってそれを受け取った。
「なら良かった」
「な、なぁ…コレが俺のって事はさ、もしかしてそれって……」
「久保田さんのだよ?二人共いつもお世話になってるから」
「………そ、そう…だよな!」
聞いてから聞かなきゃ良かったと本気で思った。
いや…別に久保ちゃんにあげるのが嫌とかそんなんじゃねーんだけど……ただ…
『部屋に居るかな?』と問う牡丹に『多分』と返して、遠ざかる背中を見送るそれが見えなくなってから、俺は一人
「お世話になってるから…かよ」
虚しい呟きを一つ、零した。
ねぇ、君のこと 好きになっても、いいですか?
(でも久保ちゃんと俺の分だけ…だったんだよな)
レイラの初恋様
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