彼女を先へ進めたのはきっと、この結末を知られたくなかったからなのだろうと…今になって思う




「………あれ どこやったかなヘアゴム」




愛していたか?と聞かれたら間髪入れずに愛していたと答えられるだろう
だって現に今も、まるでバカみたいに彼女の事ばかり考える自分がいて




「あ―――そうだ 軍服のポケットかあ…ポケットの中に物入れたままクリーニングに出すと怒られるんですよねぇ」




けれど、どうしてなのだろうか…
約束をしたのに、共に居ると
誓ったのに、何処へも行かないと

なのに…どうして僕は彼女を一緒に連れ来てやれなかったんだろうか
彼女の最後に見た顔が、あの驚いた様な何処か傷ついた様な顔が、どうしても頭を離れない。
ペタリと足に冷たい感触
果たして自分は何処まで耐えられるだろうか?
この大人数相手に無傷なんて有り得ないだろうけれど…




「まぁいいや」




足が一本でもあれば、彼女と一緒にまた白詰草を見に行ける
腕が一本でもあれば、彼女を抱きしめる事が出来る
声が残れば尚いい、愛を紡ぐ事が出来るから

…大丈夫か?
自分自身に自問すれば、返ってくるのは『もちろんだ』という言葉
だってそうでしょう?




「―――ハイそれじゃあ 始めましょうか?」




この身体はもう自分だけのものじゃないのだから…だから、本当は指一本さえ失う事は許されない。



だって失えば、僕が彼女を愛せないから。




「かかれぇええ!!!」




視界がめまぐるしい位に変わる
血が飛び散って、そこら中に紅い線を描く
それこそもう、地獄絵図の様に様変わりして行く空間で身体はただ機械の様に動き続ける




「―――習いませんでしたか?ダマになるな、って」




きっと、対峙する人間からすれば鬼か化け物の様なんだろうなと、まるで人ごとの様に考えてみる。
そうしてから、ふと口寂しい感覚に捕らわれて…煙草が吸いたいと思った。

どうせまた、彼女に『吸いすぎだ』と怒られるのはわかっているけれど…それでも。




「殺せ、殺せえェ!!」




もう自分の血なのか倒した相手の血なのか分からない紅が白衣を染めて、薄く滲んだその紅は場違いにも少し綺麗だと思った。

床を蹴る。
血で少し滑りそうになるのを何とか踏ん張って、前へ踏み出す
買い置きの即席ラーメンも食べたいし
トイレの電球も替えなければいけないし
読みたい本もまだまだ山ほどある
白詰草も見に行きたいし
下界の桜も見に行くのだと約束した

それより何より、彼女と…――――



翠花とこれからも、共に歩みたい。




喧嘩をしたり、仲直りしたり
怒ったり、笑ったり
泣いたり、悩んだり
そんな普通の…下界の人間の様な恋をして
結婚をして、可愛い子供も欲しい
女の子なら彼女に良く似て可愛い子になるだろうし、男の子なら…少し妬けるけれど、しっかりした強い男になって欲しい

上げだしたらキリがない、まだまだやらなければならない事は沢山あるから。




「……ヒィッ…!!く…来るなァア!!」
「来るッ…がはぁッ」




誰かの降り上げた刀で眼鏡が飛んだ
カシャンと音をたてて落ちたソレは、直ぐに誰かの足によって踏み割られてしまう

内心で『あーあ』と落胆の声を出す
確かだいぶん前に替えを買っておいた筈なんだけれど、と思ってから何処へ直したかなと疑問が浮かんだ

しまった…自分では分からない。

もしかしたら彼女が知っているかも知れないけれど、こればっかりは彼に任せた方がいいかと思う
彼…捲簾は整理整頓だけじゃなく、探し物も得意だから
だから、大丈夫…直ぐに見つかる。



いつものように
あの人が、僕の部屋を


掃除してくれた時にでも






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