じっと、先ほどから見返して来る赤い眼に自分の身体がビクリと怯むのがわかった。
ピンク色の光沢をもつ髪が腕に当たる。
まるでさらさらと音がしそうなくらい綺麗な髪を二つに結い上げた少女は今まさにベッドの上で唇が触れそうな距離に居た。
普段ならこんなオイシイ場面を逃す筈はないのだけれど、目の前に居る少女のそのあまりにも純粋で濁りのない視線に悟浄は拒絶はおろか触れる事さえ出来ずに居た。
翠花の式である白亜という少女と出会ったのは此処最近で、何故そうなってしまったのか…白亜は悟浄を気に入ってしまったようで、最初こそ引っ込み思案で翠花の後ろに隠れてばかりいたのに、最近ではこうして自分から遊びに来るようになった。
しかし、それは必ずしも翠花が居るときで、こうして自分だけが体調不良で宿屋に残ったタイミングに出てくるだなんて思いもしなかった…というか、扇子を置いて行くなよと内心で翠花に突っ込む。
もし妖怪に襲われたらどうするんだ、と。


「悟浄さん」
「あ、え、」


透明感のある声が自分を呼ぶ。
翠花とはまた違う種類の、可愛らしい声と共に差し出された手に何をされるか全く予想出来なくて困惑して身構えてしまう。
けれど、白亜が差し出した白い手は自分の紅い髪をさらりと撫でて


「綺麗…」
「っ、」
「髪も瞳も、ルビーみたいでとっても綺麗」
「ルビー…」


その台詞はどこかで聞いた気がした。
確か…そう、翠花が自分達に同行して直ぐくらいの時だ。
紅い髪をこうしてまじまじと見られて、どうしたと訊ねたら彼女は言ったのだ。
『太陽に反射してキラキラ光るのがルビーみたいで綺麗だ』と。
その言葉に少しだけ面食らって、でもあぁそうかと。
そんな綺麗な例えもあるものなのだと、思った。
そして白亜もまた、同じような例えをした。
よく、ペットは飼い主に似るとは言うが、それなら式はどうなのだろう…似たりするものなのだろうか。
そっと、白亜の頭に腕を伸ばす。
その小さな頭に手を置くと、赤い瞳が少し驚いた様に見開かれてから、嬉しそうに細められる。


「ありがとな」


髪の色を呪い、瞳の色を嫌いながら全てを拒絶して生きてきた。
他人にも自分にも、何も期待などしていなかった。
生き方なんて、そう変わらない。
数年前に自分は確かに三蔵にそう言った。
でも今ならわかる、生き方は変えるものじゃない。
過去の自分には、それこそ足を踏み外したらケツをひっぱたいて軌道修正するやつも、道に迷った時に一緒に悩む事も、怪我をしたら寄りかかる肩も、理不尽さに怒ってくれるものもなかった。
でも今は違う。
面倒臭くって、鬱陶しくて、口うるさくて、喧しくて、でも優しい腕が、肩が、背中があって。
八戒が前に、自分はその後の運が向いていたからと言っていたけれど、それはきっと自分にだって言えるのだろう。
八戒を…悟能を拾った事で運が変わった。
そして、そんな中で確かに自分の生き方は少しずつ変化して、守りたいものが出来た。
ガラじゃないなんてわかっている、それでも、それで笑ってくれるヤツが一人でも居るならば。


「白亜チャンってさ」
「はい?」
「俺のコト好きだよな」
「……え、」
「アレ、違ったか?」
「………っ、そんなの、い、言えません…」
「…………そー来たか…」
「え?」
「いーや、なんでも?」
「嘘、悟浄さん笑ってます」
「いやいや、俺、だいたいこーゆーカオだから。」
「うぅ……怪しいのに…」
「ーーーーっふ、ッハハ」
「あー!やっぱり笑ってる!!」


とりあえず今は、このまま…何でもナイってコトで。





(秘め事、始めました)


レイラの初恋

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