ふわぁっと一つ大きな欠伸をした。
春の昼下がり、新学期特有の気だるさというか違和感というか、そういうのを感じながら後少しで下校時刻だなーと黒板上の時計に想いを馳せた。
今日は確か、悟空も八戒も三蔵も部活とか生徒会とかないから放課後は久々に全員で帰れると聞いていた。
まぁ、昔から殆どの時間を過ごして来た自分達にとったらそんなもの人生の何万何億分の一なんだけれど、それでも全員がそろうとなると少しだけ嬉しい。
久々だし、今日はゲーセンでも行こうか
確か全員で最後にゲーセン行ったのは、秋の文化祭前だったはずだ。
シューティングは得意なのに何故か三蔵には適わない俺に、八戒はきっとホラー系じゃなければ勝てるんだと思いますよとか言ってたけど、あぁいうのってホラー系だから楽しいんだと思うから、まぁそこは仕方ないと思う。


「おーい、雪兎ッ」


グイッと身体が揺すられて、意識が浮上した。
目を開いてからあれっと思う、一体自分は何時の間に眠っていたんだろうか
見やれば、前の席には三蔵が、その左隣に縦並びで悟浄と八戒がいて、俺の右にはもう既に帰り支度が完璧な悟空が立っていた。


「目が覚めました?」
「あれ、HRは?」
「とっくの昔に終わったっつーの」
「マジで…何で先生起こしてくれないんだよ」
「HRなんざ寝てても気づかれねぇだろ」
「え!?気づかれるって!だって俺前に思いっきり頭なぐられたもん!グーで!!」「そりゃお前のフェイクが甘いからだろ」
「というか、HRくらい起きてましょうよ」

一番尤もな事を言った八戒の言葉を無視して、三蔵と悟浄と悟空が何やら先生にバレない眠り方の話を始める。
俺はそれを聞きながら、手早く荷物を片付けると時計を見上げた。
驚いた事に授業が終わってから、もう一時間以上が経っている。
どうりでお腹が空くわけだと思っていると、不意にぐぅぅうっと地の底から這い出る様な腹の虫の音がした。
即座にそれまで何かを力説していた悟浄が、腹の虫が鳴いてるぞと悟空をからかうが、悟空は自分じゃないと主張する。
それもそうだろう。


「お前じゃなかったら誰だってんだよ」
「だから!俺じゃねーって…」
「ゴメン、今の俺の腹。」


流石に悟空が不憫になって、正直に手を上げれば悟空は、なっ!違うだろと言い、悟浄は少し意外そうに目を見開いた。
そんな俺を見かねてか、隣に座っていた八戒が、飴でよければありますよと差し出して、その瞬間にまたぐぅぅうっと腹の虫が鳴く
それを聞いて、悟浄も三蔵も俺を見たけれど、残念ながら今度は俺の腹ではない。
俺が悟空を振り返れば、悟空はなんともバツが悪そうな顔で、今のは俺のと呟いて、結局お前も鳴るんじゃねぇかよと悟浄に突っ込まれた。


「しゃーねぇだろ!もう昼だしっ」
「それじゃあ悟空にもあげましょうかね」
「黒飴。」
「はいはい」
「………」
「悟浄もいります?」
「悟浄は腹空いてないからいらないんじゃないか?」


何時も悟空をからかってばかりいるから、偶にはこういうのも味わってみたらいいだろうと、少し意地の悪い物言いをしてやれば、何やら悟浄は少しムっとしたように別にいいけどよと呟いて席を立つ。
そんな彼に八戒があえて聞こえるように、そんな事言っちゃいけませんよ、悟浄は素直になれない可愛い人なんですから。なんて言うもんだから、悟空と俺は腹を抱えて大笑いした。
だってあの悟浄が、八戒にかかれば素直になれない可愛い人に収まってしまうのだから。
三蔵のアレの何処が可愛いんだという言葉は聞き流して、此方に背を向けていた悟浄が遂に、あぁぁああ!!と大きな声を上げたかと思うと、八戒の制服の襟首を引っ付かんで無理やり引っ張り上げた。


「ったく、人が黙って聞いてりゃ好き放題言いやがって!ホラ!!お前らも立てっつーの、メシ行くぞ!!」
「えっ!?もしかして悟浄の奢り?」
「誰が奢るか、大バカ猿」
「奢りなら仕方ねぇな、付き合ってやるか」
「だから奢らねーってんだろーが、ってか何で奢られるのに上から目線?」
「じゃあ食べ放題行こう、ケーキとかも食べれるとこ」
「だーかーらー奢」
「ご馳走様です、悟浄」
「………」


八戒のまるでトドメの一撃みたいな笑顔がヒットしたのか、悟浄は諦めた様に一つ舌打ちをすると、食い放題1500円までならなとぶっきらぼうに告げる。
その答えに俺は悟空とイエーイと手を合わせて二人の後に続いた三蔵に習って立ち上がる
貰った飴玉を口に放り込めば、甘酸っぱい、何処か懐かしい味がした。





(共に過ごす時間が何よりの喜び)




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