目が覚めた。
寝覚めは最悪だった。
久方振りに見た…昔の夢。
私の髪を、眼を、肌を見て、気持ち悪いと嫌悪した…そんな人達の夢。


「おはようございます、翠花」
「あ……おはよ、八戒」


でもこの短い人生の中でそういう事を誤魔化して、なかったことに出来るだけの術なら学んだ。
無理に笑えば、そのうちに感情もついてくるということも。
だから私はごく普通に彼に微笑んだ。
まだ胸は痛む、それが昨日の事でなのか夢のせいなのかなんてのは知らない、知りたいとも思わない。
けれど。


「あの、さ」
「はい?」
「ごめんなさい…昨日は…」


本当はあの時に謝りたかった。
でも出来なかった。
どんな顔をして謝れば良いのかわからなかった。
私を見て、必死に手を伸ばす彼に放った残酷すぎる言葉…
今ならそれがどれくらい彼を傷つけたかわかるのに、あの時の私にはそれが想像出来なかった。
バカだった、そう思う。
ごめん、そんな言葉だけで許されるなんて思っていないけれど、あの時の彼の言葉が私をここに留まらせてくれたと、そう思う。


「翠花」


私を呼ぶ声。
優しく髪を撫でられる。
温かい手に目頭が熱くなる。
きっと、あそこで死ぬなんて選択をしていたら…二度と感じなかった温もり。
いつもは戸惑うのに、今はそれが恋しくて。
他の三人がいつ眼を覚まして外に出てくるかわからない状況なのに、私は堪らずに八戒に抱きつく。
昨夜、あれだけ悟空の前で泣いたのに涙は溢れて止まらなくて。
八戒の腕が私の身体を引き寄せる。
翠花、と私を呼ぶ。
その声が、呼ばれる事が嬉しくて。


「八戒…」
「大丈夫、ここにいますよ」
「うん……ごめん…」
「もういいですよ、貴女が今ここに居てくれる…それだけで、充分です。」


忘れてしまうことなんて、きっとこれから先だって…出来ないだろう。
だけど、今朝の悪夢みたいに上手く受け流して“過去”にすることは出来る。
それは私がこの先、生きる限り“思い出”にさえ変えていける。
それを、私は彼らから教えられたから。
再び翠花と八戒が私を呼ぶ。
視線を合わせれば、目元を唇が掠めて離れて行く。
不意打ちに驚いて言葉を失った私に、八戒は左手の指を絡めて、幸せそうに微笑むと言った。


「やっと、捕まえた」




Westward Story Extra chapter 1
【The city of Albino belief】

>>END.

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