裏考察 | ナノ

■秦考察■

『彼女に関わるこの世の全ての男の中で、彼女にとっての一等賞になりたいんだ。俺は』

≪せつなる恋の心は尊きこと神のごとし≫
(by樋口一葉)

樋口一葉さんの初めてこの文章を見た時はなんて美しすぎる言葉の響きだろう、と感動していたのですが、他キャラクターの裏考察では一度も使うことなく過ぎてきました。この一文が似合うのは自サイトの夢小説における男性キャラの中でたった一人、秦だけだと思います。

陸遜や姜維、幸村等他の10代メンズも『切なる恋の心』具合では秦に負けていないと思いますが、ブラック系・ヤンデレ系の『それ』は『神の如し』というよりも『悪魔の如し』という言葉の方がしっくりくるような気がします。何となく。

秦は記念すべき当サイト初のオリジナル男性キャラクターです。夢サイトにおいては、平たく言えば夢主だって立派なオリジナルキャラクターになる訳ですが、男性キャラとしては珠稀よりも彼の方が遙かに早い、一人目のオリキャラという事になります。

最初の彼は凌統夢『囚人U』で登場した名も無き新人兵士という存在でした。その後訪問者の方々から頂いたコメント等々、様々な紆余曲折を経て彼をメインにした夢小説を書くまでになったのですが、そんな感じの彼でしたので当時はまだ顔も性格も名前すら全く決まっていない状態でした。

とりあえず彼の名前を決めることから始めましたが、基本的に当サイトは黒夢メインサイトです故に、『純情系キャラ』は想定外の存在です。サイト内でもそれ系統の夢は取り扱っておりません。一見純情系にカテゴライズされそうな幸村ですら、黒夢サイト仕様という事でヤンデレ属性が付加されています。

そんな訳で、彼の名前として採用したのは純情少年の名称に全く相応しくない意味をもつ名前です。

『Sin』という単語を辞書で引いてみますと、≪(道徳・宗教上の)罪, 罪悪, 罪業≫という説明文が出てきます。ちなみに『sin a sin』ですと≪罪を犯す≫という英文になるそうです。メソポタミア神話では≪シン=月の神≫を表しますし、何かの神話かどこかの地方では『魔王』という意味合いを持つという話を聞いた事もあります。

秦は戦争で村を無くし、家族を亡くし、生きていくために体一つで呉軍の兵になる事を志願した10代の少年という設定です。

元来性根の優しい男性である秦にとって、軍に身を置く事は決して楽しい事ではなさそうです。『生きていく為には仕方がない』と分かっていても、慣れない戦場に出て、上官の命令の元に次から次へと敵兵士や村人達の命を奪う事は、彼にしてみればかなりのストレスではないかと思われます。

その上当時の彼は何の身よりもなく、知り合いもなく、まだ親しい友達もあまり出来ていない上に、軍に入ったばかりの彼は武器の扱いにも慣れていない状態です。戦場では己の未熟ぶりを毎回のように上官から叱咤され、そんな悩みや愚痴を打ち明けられる気心の知れた友人も全くいません。

そんなある日、突然彼の前に現れたのが夢主という流れです。戦場帰りの秦が一人で傷ついた体を治療しようとしている姿を目にした夢主は、自分と彼の身分の差など全く気に留める素振りもなく彼の看護を申し出て、彼の傷口に丁寧な手当を施します。

この時の彼の心境は、察して余りあるものがあるのではないかと思います。元々純粋で真っ直ぐな性格で、まだ10代の青年だった彼が恋に落ちるには十分過ぎる出来事だったと思うのです。

この日から秦は夢主に対する恋心を日々募らせていく事になるのですが、彼の場合のみ他の無双キャラ達とは全く違った恋愛事情になります。

一国の武将として普段から夢主と親しく出来る立場にいる他の無双キャラ達とは異なって、秦の場合はただの一般兵士です。彼らのように夢主の顔をいつでも見られるという訳でもなく、気軽に話が出来るという訳でもありません。

ましてや、夢主の正式な恋人になれる可能性なんて殆ど普通に考えればゼロに等しい確率でしょうし、夢主のような身分の女性には正面切って愛の告白をする事などためらわれる身分の男性です。

それ故に、彼は他の武将のように気安く夢主の肌に触れる事すら叶わずに、アナザー1〜3までは夢主とキス一つ出来るどころか手を繋ぐことさえ叶いません。

しかも秦はアナザー2で凌統&陸遜と夢主の濃厚な性行為の現場まで目撃する事態に陥り、心に大きな痛手を負います。その後の3でもただひたすら夢主への思いを募らせていく彼の切なさと苦悩の描写が続くだけです。

≪恋わずらいの人は、ある種の病人のように自分自身が医者になる。苦悩の原因をなした相手から癒してもらえることはないのだから、結局は、その苦悩の中に薬を見出すのである≫
(Byマルセル・プルースト)

こんな何の実りもない恋なんて、すっぱり諦めた方がいいのかもしれない。

『どうせ自分のような立場の男には最初から敷居の高すぎる、叶わぬ恋だったに違いない』

何度もそう考えて、秦は自分の心を慰めます。恋に破れた人間にとって、『(様々な理由を並べ立てて)この恋は最初から無理だったのだ』と考え、自分で自分を納得させることは何よりも強い慰謝剤となると思うからです。

そんな流れもあってアナザー4では一瞬他の女性に心が揺れ動いた秦ですが、そんな彼の苦しい胸の内を知ってか知らずか、罪な夢主は秦に対してこれ以上ない笑顔で接し、彼との身分の差なんて全く気にしていないとばかりに優しく話しかけます。

≪僕はおまえが好きだった。そして今でも好きなんだ。たとえ世界が木っ端みじんになったとしても、その残骸の破片から、恋の想いは炎となって燃え上がる≫
(Byハイネ『歌の本』)

そしてそれにより、今までずっとくすぶっていた彼の恋心はまた再び激しく燃え上がる事となりました。

夢主のことをせっかく諦めようとしていたにも関わらず、哀しいかな、秦は「ああ、俺はやっぱりこの人の事が好きなんだ」と自分の心の中で再認識してしまう羽目になってしまうのです。

≪恋の味を痛烈に味わいたいならば、それは片思いか失恋する以外にないだろう≫
(By亀井勝一郎)

上記の言葉に従って説明をさせて頂くとするのなら、本当の意味で『恋の味』とは何たるか、という事を知っているのはただ一人――――秦しかいないのではないでしょうか。そしてアナザー4から彼の心と体に徐々に変化が始まっていくのではないか、というのが自分の考える純情少年の恋の行方です。

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