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何年も前に書いた土方夢(名前変換なし)を発見。
「まだ残ってたのか…」と妙に感動したので曝します。懐かしいな…。










ここは私の家。居間。ソファーには一応恋人である土方と一緒に座っていた。そう過去形である。


電話をしながらの、彼の少し鋭くなった声色を聞くのを慣れてしまった私。恐ろしく他人事のように、ああ、せっかくの休みに仕事が入ったのか。と、思ってしまう。それ程休みの日に私と一緒にいて、突然仕事が入るのはいつものことなのだ。それから彼は電話を切って、悪い仕事が入った。と哀しいくらいに無表情で呟く。私はそんななんとも思っていないような顔をする彼に、いってらっしゃい。とそれ以外何も言わず見送るのだ。そして彼の広い背中が私の前から消えたら、小さく溜息を洩らしてから、こう考える。次に会えるのはいつなんだろうと、


なあ土方、恋人がアンタと会うたびこんな事を考えてるのを知ってるかい?気づいているかい?
そんなこんなで何度土方との約束が駄目になったかなんて知らない。数えていない。数えるだけ無駄だし、哀しくなる。


あっちは江戸の平和を守る武装警察真選組の鬼の副長。
私は自宅から近くにある、そこら辺のと変わらない団小屋の従業員。

身分が違いすぎるこんな二人が、恋同士など誰が思うのか。







毎週日曜日は必ず休みを貰っている私とは違って、あっちは訳のわからない書類やら攘夷志士のテロ対策やら市中見回りやらで忙しく、休みなんか滅多に無い。もちろん承知済みだ。良くて何週間に一度、良くなくて何ヶ月かに一度会えるか会えないか。約束したって急に仕事が入って駄目になったこともある。
その時はケータイを持っていない私の自宅に電話して、仕事が入った悪い。とだけ申し訳なさそうに言って、私はそんな声で謝らないでよ。空しいよ。という言葉は飲み込み、わかった。お仕事頑張ってね。とだけ言って、さっさと電話を切る。それ以上話すと寂しくなって泣いてしまいそうだったから。


あっちは江戸を守るのに忙しいんだ。団子屋なんかで働くあたしとは違う。忙しくて仕事人間なアイツ。







だから、時間になっても待ち合わせ場所にも来ないんだ。








待ち合わせ時間から30分はすぎたか。私は左手首に巻き付けてある可愛くもない、装飾品もあまりついてない、安物の腕時計を見下ろした。


今日は土方の誕生日。どうしてもこの日に土方に会いたくて、土方に無理を言ってなんとかこの日を空けてもらったのだが、なかなか彼の姿は現れない。
あと5分。いやあと10分。いやいやあと15分待ってあげよう。それくらい待てってあげれば、あの坂道と空の境界線から黒い影が走って来るはずだ。
悪い、遅れた。なんて言ってさ、良くできた彼女の私は許すけど、許してないフリしてちょっといいものを奢らすんだ。
久しぶりのデートその日の予定は夕方4時に待ち合わせして、ぶらぶらと歩いてから晩ご飯を食べるという内容だった。晩ご飯を食べてから、今私が両手に持つ彼へのプレゼントを渡すのも予定の中に入っている。
仕事が忙しそうだし休憩も欲しいだろうし、昼間に誘うのもどうかなという気の利いた彼女の時間指定だ。いい彼女を持ったと思えよ土方。

もちろん公衆電話から土方の携帯に電話をかけようかと思ったが、私は彼の携帯番号を覚えていない。忙しい彼に、自分から電話をかける事んてないだろうと思っていたし、家の電話機の近くに番号を書いたメモを置いたままだったから。今更ながら覚えておけばと思う。
待ってる間へんなチャラ男に「彼氏待ってんの?オレと遊ぼうよ」と安いナンパされたけども(あっちはそんなつもりないかもだけど)私は無視し続けた。土方がもうすぐで来るから、来てくれるからと。





結局家康像の前に一時間以上待ったけど、アイツは来なかった。





久しぶりに会えるからだと、
一緒にいられるからだと、
アイツの前でもめったにしない化粧も頑張って、
最近買ったお気に入りの着物も着て待っていたのにと、
何だか空しさと悔しさがぐちゃぐちゃになった。







そんな愚痴を、土方のために空けていた時間を潰すため、一緒に飲もうと誘った銀さんにした。
銀さんは聞いているのかいないのかよく分からなかったけども、ぼんやりと私の奢りのお酒をチビチビ飲みながら隣に居てくれた。
一度家に帰って化粧を落として土方へのプレゼントを置いてきていつもの部屋着に戻ったこんなみっともない女に、銀さんは飲みつき合ってくれた。彼のそういう所は嫌いじゃない。
顔が少し赤い。同じお酒を飲んでいる私とは違って、早くも酔ってきたこの男を横目に見て私は小さく溜め息をつく。


私はね、我が儘言ってアイツを困らせたくないの。会えない時は我慢するし、会いたいと思っても口にしない。
けど土方のために…少しでも女の子らしい可愛い女の子になろうと頑張った。


両手になみなみと入ったビールを手に呟く私の顔は、きっといつもの無表情とは違う、(よく無表情だと言われるから)落ち込んだ顔をしているんだろう。

ドタキャンは初めてじゃないのに、なんか、苦しい。







送ってやると言ってくれた、完全に酔っ払った銀さんに丁重にお断りした私に、そんじゃ気を付けて〜。と千鳥足で銀さんは去って行った。そんな彼の後ろ姿を、私は無言で手を振り見送る。
腕時計を見下ろせば、時刻はすでに夜の11時半を回っていた。居酒屋周辺の道は真っ暗で、ポツポツと街頭が夜道を照らしていた。星がなんだかよく見える。満月も気持ち悪いくらいよく見えた。

土方の誕生日もあと30分もしないうちに終わってしまう。ずいぶんと呆気ないものだと思った。

今彼は何をしてるんだろう、何を考えてるんだろう、今日が自分の誕生日であることは覚えているのか、今日私と会う約束を忘れてしまっているのか、ごちゃごちゃと酔いの浅い頭で考えた。機嫌の悪い時に飲む酒はダメだ、そんなに飲んでなくても気分が悪くなる。
明日からまたバイトだ。こんな厄日なんて忘れて、早く帰って寝てしまおう。その考えが頭をかすめ、私はくるりと後ろを向いて自宅へ目指したのたが。



すぐそこには土方が呆然と立ち尽くし、私を見つめていた。


よくは聞こえなかったが、彼の口が確かに私の名前を言った。口の動きでわかる。
それからゆっくり私に近づいてきたのだが、彼の服装を見て私は一歩後ずさった。着流しを着ていたのだ、ということは仕事をしていて約束がなくなったわけではない。



彼女の約束ほっぽって自分の誕生日に何してたこのニコチンコどうせ真選組のみんなとキャバクラにでも行って私みたいなみっともない女じゃなくてべっぴんさん侍らしてたんでしょコノヤロードンペリ何本飲だ?あぁ何本飲んだコノヤロー私の給料何ヶ月分のドンペリ飲みやがったコノヤロー。



とほぼノンブレスでまくし立ててやったら、土方の野郎は、はぁ?と言って首を傾げた。
それは私のセリフだアホんだら。怒るでしかし。どんだけ私が一人寂しく待って、どんだけ私が苛立ちながら酒を飲んだと思ってるんだコイツは。私が今どんな気持ちかわかってんのかコイツは。
無表情で彼を見つめていたら、土方が口を開き、お前何で家にいなかったんだよ。祝ってやるって言ったじゃねーか。と、ため息混じりで言った。
私の家に、祝う、訳の分からない土方の言葉に、今度は私が首を傾げる。




話を整理をすれば、どうやら私は土方に待ち合わせ場所と時間を伝えたと思い込んでいたらしく、勝手に待って勝手に苛立っているとのこと。
確かに、彼が休みの日はいつも私の家に来てはダラダラと一緒に過ごしていた。
けど私は土方の誕生日だということで妙に張り切り、いつもと違う予定を立ててしまったらしい。


ヤバい。恥ずかしい。バカか自分は。バカというか、もう最低だ自分。
土方は、私の誕生日を祝いたいというお願いで予定を空けてくれたのに、彼の貴重な休みを丸一日ダメにしてしまった。あの局長がいるのだ、きっと真選組のみんなで誕生日に飲もうとも誘われていただろう、なのに私ってば勝手に勘違いして。その上私はこんなみっともない格好して、お酒飲んで。


一人で自己嫌悪していると、フワリと全身が彼の抱擁により暖められる。
突然の温もりにより何も出来ずにいる私の耳元で、電話にも出ねーし、ずっと探してたんだぞアホ娘。と言った。


誕生日おめでとう土方。
そう言えば、おせーよ。とぶっきらぼうに彼は答えた。


時間が12時を差そうとしてる。もう少しで5日が終わってしまう。
彼へのおめでとうという言葉を、今日最後に言うのはきっと私だろうな。







あっちは江戸の平和を守る武装警察真選組の鬼の副長。
私は自宅から近くにある、そこら辺のと変わらない団小屋の従業員。

身分が違いすぎるこんな二人が、恋同士など誰が思うのか。




それを知るのはきっと、私たちを照らす満月だけ。







end




懐かしいいいいい!
これ書いたのいつ?高校生くらいかな…。「」の一切ない文を目指したんだっけ。