戴き文 | ナノ




夢を、見た様な気がする。
甘い甘い、蕩ける様に甘い夢だった。そんな気がする。
覚えているのはそれだけで、内容は一切覚えていない。










あまり調子が良くない。
集中する事をやめ、隣にいるルカリオに目をやる。
ルカリオも私の調子が悪いのに気付いているのだろう、こちらを見ていた。
苦笑し、優しく頭を撫でてやる。


「すまないね…今日の修業はこれくらいにしようか?」


首を縦に一つ二つと振ったルカリオの頭をもう一度撫でてやり、ボールに戻す。
自分でわかる、自身の波導が乱れている事に。
今朝見た夢の所為だろう。まだまだ未熟だな、と自分に苦笑した。
外の空気を吸おうと思い、洞窟を出る。


「よく晴れているな…」


鋼鉄島の周辺には雲一つなく、空が青く澄み渡っている。
暑かった夏も過ぎ去り、心地良い風が頬を撫ぜていく。
こんなに天気が良いのも久し振りかもしれない。
私が出ていないだけで、その間にあったのかも知れないが。


「…ん?」


近くの岩場に腰を下ろしていると、一人の男がこちらの方へと歩いてくる。
あまり見た事がないその男に、私はついそちらを見てしまう。
こんな所にやってくるなんて、相当な物好きだ。
自分の事など棚に上げて、男の方を見ていると、その男と目が合った。
あちらも似た様な事を考えているのだろうか?
眉間に皺を寄せながら私をじっと見ている。むしろ、睨まれてる。
特に何かをした覚えもないので、黙って男を見ていると、男は私の目の前で立ち止まった。


「…ちょっと、聞きたいんだけど」
「…何かな?」


初対面の人間に対して、その口調はどうなのだろうと思いながらも、
私は笑顔で男からの質問を待つ。


「…ゲン、って、あんたの事か?」
「…そうだが、私に何か用かな?」


男に見覚えはない。
けれど、男はどうやら私に用事らしい。
万が一の事を考え、いつでも波導を出せる様に構えながら、次を待つ。
吟味する様に私を見、少々躊躇った様な間を取ってから、男が口を開いた。


「コウキ、知ってるな?」
「コウキ…ああ、あのトレーナーの少年だね?」


たまにこの鋼鉄島に遊びに来る少年、コウキ。
以前会った時、私が託したリオルを、立派なルカリオへと成長させていた。
思った通りの、優しく、深い愛情を注ぐ事が出来る少年だった。
そんな彼がどうしたと言うのだろうか?
今一つ、男の考えがわからないでいると、先程よりも眉間の皺を深くしてこちらを睨んだ。


「コウキに、近付くな」
「……うん?」


よくわからない。どういう意味で言っているのだろうか。
私から別に彼に近付いた覚えはないし、特別近付こうとも思っていない。
まして私も彼も同性で、もちろん目の前の人物だって同性だ。
何を言っているのだろうか?
私が勘違いしているだけで、近付くには別の意味があるのだろうか。


「それはどういう意味かな?ちょっとよくわからないのだが…」
「その通りの意味だ。コウキには近付くな」
「……君はコウキくんの何なのかな?」
「お前には関係ない」


失礼な男だ。
関係ない、と言ったが、聞かなくても何となく察しがついた。
私が知らなくて、男が私を知っている理由。
確かめる様に、私を睨んでいた理由。
近付くな、という言葉の理由。
そこにコウキという少年を当て嵌めると、全てが解決した。
つまりは、そういう事なのだろう。


「(…そう言えば)」


男の事などそっちのけで、私は今朝の夢を思い出す。
思い出せなかった内容を、今このタイミングで思い出した。


「とにかく、コウキには近付くな」


それだけ言い残して、男は私に背を向けて去って行った。
しかし今の私にはそんな事などどうでもよかった。
恐らく、あの男が来なければ、夢の内容を思い出す事はなかっただろう。
恐らく、無自覚のままでいただろうに。自覚してしまった。
余計な事をしてくれたものだと、私は溜息をつく。


「……ふむ」


ふと考える。
あの男と、彼は、一体どこまでの関係なのだろうか。
わざわざこんな辺鄙な場所に出向いてまで忠告するその真意は?目的は?
…恐らくは、私が考えている通りだろう。
つまりは、まだ遅くはない、という事だ。


「…全く、余計な事をしたものだ」


何もしなければ、苦労などしなかっただろうに。
既にこの島から去った男の行動を笑いながら、私は立ち上がる。
次に彼が来たら何をしようか。
そんな事を考えながら、私は洞窟の中へと戻っていった。
久し振りに、楽しくなってきた。













デンコウオフ会でお近づきの知るしにソラノちゃんからデンコウ←ゲン小説を貰いましたー!
デンコウ絡んだゲンさんってどこか黒くなるよね…!デンジまた厄介な敵作ったわね!そしてなんと罪作りなコウキ君…^^「まだ遅くはない」というゲンさんの一言にドキィ…!この後の展開が非常に気になるんだけどねぇソラノちゃん<●><●>どうなんるんだろうとこちら側でいっぱい考えさせられる小説ですね!私はどうも最後まで書いて中途半端に分からないで終わったり書きすぎちゃったりするので、ソラノちゃんのこういう書き方がSUKI…ッ!
小説ありがとうソラノちゃん!うちも頑張って書いたけど押し付けちゃってごめんね!><
他ソラノちゃんの作品はピクシブにもございます→ソラノちゃん宅