テマリはあっさりとした女である。
 口調には女らしさがついぞ見られないし、考え方も一か零かといったごくシンプルなものだ。
 だからなんとなく、物もあまり持たないタイプだと思っていた。いや、持たないのは確かなのだ。実際には彼女は、買ったものを片端から惜しげもなく捨ててしまうのだった。
 シカマルはテマリと歩いているとき、彼女の財布からどんどん紙幣が消えるのを見てぞっとする。
 服や靴や植物、挙げ句には絵画まで気に入ったものは何でも買ってしまう。同じアルバイト先に勤めるシカマルは、彼女が毎晩のようにシフトに入っているのを知っている。その対価の金がこんな風に使われるとは、なんとまあ。
 買い物に付き合わされるのは、たいてい荷物持ちが必要なときだ。文句を言いながらも必ず荷物を持つから気に入られているのかもしれない。全く面倒臭い話だ。

 テマリとシカマルは所謂恋人同士ではない。
 だから、テマリは服を選ぶときに「どんなのが良い?」だとか「どっちが似合う?」などと尋ねはしない。一人でじっと見比べたり、鏡の前で合わせたりした後さっさと会計を済ませる。
 その横でぼうっと立っていたり取り留めのないことを話したりするのは楽だが、なんだか間抜けのようだった。
 ただ、多分テマリは恋人が相手だとしてもそういったことを聞かないのだろう。本当に淡白な女だ。
 しかし、テマリは確かに淡白なのだが、一方で存外面倒な女である。頭の良いシカマルも、彼女の思考回路はさっぱりわからない。
 もっとも、理解できないのはテマリに限らず、女全員なのだが。

「テマリ」

 唐突にシカマルが呼んだ。歳は違うけど、入った時期は一緒だから呼び捨てでいい。そう言ったのはテマリで、シカマルも特に異論なくそれに従っている。
 何だ、と答えたテマリに対し、シカマルはすっと右手を上げて、通路の反対側にある店を指差した。

「ああいうの、アンタ履かねえの」

 シカマルが示したのは赤いエナメルのパンプスだった。
 シカマルがそういうことを言ったのは初めてだったから、テマリは少し驚いた風に瞬きをした。しかしすぐに肩をすくめてみせる。

「気に入れば買うけど、どうかな。買っても履かないかもしれない」
「もったいねえ」
「仕方がないだろう。買ったから使わないと、みたいな考え方は好きじゃないんだ」
「それだったら、買わなきゃいいだろうに」
「まあね」

 そう言うテマリはその赤いパンプスを買うつもりはないようだった。当然だ。金遣いが荒いとはいえ、目に付くもの全てを買うわけではない。
 シカマルは少しの間押し黙った。
 それから、すたすたと歩いて店員に話しかけると、あっと言う間にそのパンプスを買ってしまった。
 戻ってきたシカマルは「やるよ」とだけ言って、何でもないように袋をテマリに差し出す。きっと似合うから、とはあまりに単純すぎて言わなかった。

「……履くかわからないぞ」
「俺が勝手にしたことだからな。他のみたいにすぐに捨てても構わねえから」

 先程とは逆に、今度はテマリが押し黙る番だった。
 無言で袋を受け取り、ラッピングのリボンをじいっと見つめ、それからシカマルを探るように見上げた。
 シカマルにとってテマリが理解できない女であるように、テマリにとってのシカマルも理解できない男であった。
 ……けれどテマリはシカマルのそういうところが気に入っているのだ。多分。
 テマリはふと、困ったような嬉しいような、どっちともつかない顔をして微笑んだ。

「そういうのは少し、ずるいな」



 シカマルは荷物持ちだから、テマリに渡した袋をまた受け取って抱え直す。
 必要以上に綺麗にラッピングされた袋は、恋人への贈り物だと思われたからに違いない。
 実際には二人は他人同士で、テマリがその袋を開けるかどうかすらわからない。
 しかし、テマリはきっとその靴を履く。そうして爪先が痛いだとか、色が派手すぎるだとか文句を言いながら、結局真っ赤なパンプスのままシカマルをいつものように連れ出すのだ。
 全く、女ってやつは。
 けれどシカマルは、テマリが女で良かったとも、頭の片隅で本当は思っている。





君の手をとって踊るのだ。どこまでも。そしていつまでも。





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manaのリクエストで「シカテマパロディ」でした!シカテマ書くの久々でぐひゃひゃひゃ
こんななのでごめん…でも凄く…楽しかったです…
リクエスト本当にありがとう!

(manaのみお持ち帰り可です)



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