(アニメ最終回)




 ホークアイはマスタングの寝顔をまじまじと覗き込んでいた。鳶色の瞳が生真面目に瞬く。昔よりも少し広くなった額から、皺の出来始めた目元、彫り深い鼻筋を通って、色の薄い唇へと視線が滑る。深刻そうに口を結びながら、厳かに取り出したのはサインペンだった。「髭でも生やすかな」と昼間、マスタングがぼやいたのには気がついていた。三十の頃に比べたらぐっと渋みの増したマスタングであったが、どうやらまだ物足りないらしい。しかし、忙しい時に顎に散らばっていた無精髭を思い出すに、どうにも好ましくない。清潔感に欠ける。潔癖とは言わないまでも彼女はきれい好きであった。そうすればやはり、簡易な髭を用意するのが副官としての務めだろう。
 ホークアイが起き上がったせいで冷気が触れたのか、マスタングの眉がわずかに寄せられる。慎重に、慎重に。そうっと。彼女の集中力は軍でもピカイチである。ペンは震えることなくマスタングの顔にそろそろと近づいていく。頬にペン先が触れようとしたそのとき、ピタリと動きが止まる。昔ネコ髭が駄目出しされたのを思い出したのである。……ふむ。
 考えて数秒、彼女はにっこりと笑った。鼻下から口元にかけて、きゅっと線を描いた。角度は45゚、綺麗なシンメトリー。所謂ちょび髭である。なかなか悪くない。完璧と言って差し支えないだろう。マスタングが鏡を見るときの反応を想像してわくわくした。
 ついに起きることのなかったマスタングの隣にもぞもぞと潜りこみ、布をしっかりと掛け直す。優しい声で「おやすみなさい」と囁いた。


「なんだなんだ、上機嫌だな。良い夢でも見たのか?」
「ええ、まあ」

 ホークアイの珍しい様子に首を傾げる。低血圧の彼女は朝は大抵ぼんやりとして無表情なのだ。まあ、いい。機嫌は良いに越したことはない。

「私は大佐だったときの夢を見たよ」
「あら……懐かしいですね」
「君は本当に変わらない。あの頃のままだ」
「そんなことありませんよ。それに大将だって……」
「私はずいぶん老けただろう?」

 ホークアイはマスタングの口元に触れる。にこりと嬉しそうに微笑んだ。

「いいえ、とっても可愛らしいですよ。相変わらず」
















髭「ばんなそかな」
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