手を広げたはいいが、何をしよう。そもそも手を広げて何をするつもりだったんだろう、まぁいいや。広げた手に何が欲しかったのかは決まってる!それは平穏よ!自然と笑みが出てきて心が弾んだのは今から私がクリアになるから!



現代日本、首都東京、踏切前、クリアになるまで28秒!




かりそめ:03




指摘されて初めて私は身体を起こした。次にぼんやりと萎えた瞳で庵の全体を見回すとまず私に膝を貸していてくれた珊瑚ちゃんの強張った表情に弥勒さまの射るような鋭い眼光、角には雲母にじゃがりこをかかげたまま固まっている七宝ちゃん。

「………、」


このまま気づかなければよかったのにとも思ったが聡明な弥勒さまのことだし、それはまず無理かとすぐに考えついた。

弥勒さまはふぅ、と一息ついて私の瞳を見据えて。
言いたいことは分かってる、言わないで言わないでその言葉を言わないで。彼の名前をここで出さないで

「やはり起きてらっしゃったのですか…」

苦々しい表情をつくり、手を額にあてる。


「…心配は嬉しかったけど私はもういいわ」

「かごめ様」

大丈夫ですか、と彼は問う。なんてこと皮肉だわ、こんな私を見て大丈夫なんて!
私が大丈夫?そんなわけないじゃない。


それでもそんなことは言えず、どうしていいか分からずにほほえんで。
珊瑚ちゃんが後ろで私の名前を呟いたけど反応は返さず。


「かごめ様、とりあえず犬夜叉に気持ちを伝えましょう。」


我々が間に入りますから、と丁寧に現代の弁護士のように弥勒さまは真剣に言う。

だけどもういいわ。私はあの人の一番にはなれない、とか言おうとしたけどやめておいた。だって何か未練がましい。

代わりに首をゆるりと横に振れば弥勒さまの苦虫を噛み潰したような声。


救えるとでも思ったのだろうか?
なんて馬鹿馬鹿しいのだろうか。

「かごめちゃん、私達も出来るだけのことはするから…だからそんな風にならないで?」


珊瑚ちゃんがその瞳を細めて、哀れむようにこちらを見てきた。やめて、やめて!そんな瞳で見ないで!私に構わないで心配なんてしないでよ!

その言葉を押さえ込むように私は俯いてぎゅ、と唇を噛み締める。こんな醜い考えしかもてなくて、ごめんなさい。


「…つらいの…。弥勒さま珊瑚ちゃんごめん…
ごめんね…」

「か、かごめちゃんが謝ることないよ!」

珊瑚ちゃんがぎゅっと私の手を握って、慌てたように言う。
私はそれにただ頷いた後、顔を俯かせた。今みんなの顔を見ることができない。

「大丈夫…」


大丈夫だから…もう放っておいてほしかった。




かりそめ:03





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