以前真ちゃんが家に遊びに来た時、オレはコーヒーを出した。理由はなんとなく真ちゃんにコーヒーが似あいそうだったから。ところが真ちゃんときたら眉をひそめ、コーヒーから目を逸らしてまた本を読み始めてしまった。せっかく入れたのに。ああ、もしかして猫舌なのか。なーんだ。
そうやって納得してから暫く経つが、真ちゃんがコーヒーを飲む気配がない。なにか気に入らないことがあったんだろうか。でもそれなら入れ直せくらい言いそうなものなのに。


「しーんちゃん」
「……」


無視だ。完全に本の世界に行ってしまっている。おーい、一応ここオレん家なんだけど。


「おーい。真ちゃん。きーいーてーるー」


 耳元で大声で言ってやれば盛大に嫌な顔をされた。でもようやくこっちを見てくれたので良しとする。


「コーヒー飲まねえの」
「……」


 聞いてみれば何故か真ちゃんの目が部屋をさまよった。何か言おうとして、でも言えないみたいな顔をしている。え、これもしかして。


「どうしたの。言いたいなら言っていいよ。ていうかいつもズバズバ言ってんじゃん」


 真ちゃんの顔を覗き込みながら言ってみた。ジロリ、と睨むもすぐに足元に視線がいってしまう。やっぱ伏せ目も綺麗だなー。何も言おうとしないし、ハッキリ聞いてしまった方が早いだろう。もしオレの予想が合っていれば、頑固で自分の弱みをさらすのを嫌う真ちゃんが何か言うことはないだろう。


「コーヒー苦手だった?」


 ビクッと肩が跳ねたのをしっかり見た。あー、やっぱり。


「な、…そっそんなわけでは…」
「じゃあ、なんで飲まないの」


焦ってる焦ってる。これくらいハッキリ言ったっていいのに。まあ、いつも飲んでるのお汁粉だしな。思った以上に甘党なのかもしれない。
いいよ、お茶に変えてくるね。そう言ってカップを持って立ち上がり部屋を出ようとするとクイッと服の裾を引っ張られた。振り返ると真ちゃんが目を逸らしながら何か言った。


「ん?ごめん。聞きとれなかった。もっかい言って」
「コーヒー牛乳なら、飲める、のだよ」


 え、なにそれ。えええええ。なんかよく分からないけど凄くときめいたぞ。
 真ちゃんの新しい一面を知って頬が緩む。だがここで笑えば確実に機嫌を損ねるだろう。頑張ってポーカーフェイスを試みるもダメだったらしい。不機嫌そうな顔になってきた。


「そ、そんな顔をせずとも笑えばいいのだよっ」


 不機嫌そうだがまだ焦っているらしい真ちゃんに可愛いなーと思いつつ、できるだけ冷静に言った。


「別に笑わねーって。今コーヒー牛乳作ってくっから。それでいいだろ」


な、っと覗き込めば、睨みつけながら頷いた。そんな照れ隠しを愛おしく感じながら台所へと向かったのだった。




「飲み物もってくから先に部屋行ってて」


 あれ以来、真ちゃんがオレの家に来た時はコーヒー牛乳を出すというのが習慣になっていた。初めて出したときは不味い、って言われてショックだったけど今ではかなり上達した。勿論、真ちゃん風に言うなら人事を尽くした結果だ。
 真ちゃん大好き、と呟きながら作るのがコツだ。愛情と牛乳たっぷりのコーヒー牛乳完成。オレの愛の形が具現化した感じ。…いや、いささかロマンの欠ける表現だ。やっぱり撤回した方が良いかなー。
 小さく笑いながら台所をあとにする。
 まあでも…




これも愛の形なんて言ってみる
(そう外れた表現じゃないって信じたい)









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