企画:静夜提出作品
テーマ:死・花・一人

 新しいシーツは清潔そうで、ふかふかな枕も快適そうで。静かに眠る黒子テツヤはとても静かだった。真っ白な黒子の肌は白磁器のよう。
 黄瀬はとても黒子テツヤが死んでいるなんて思いたくなかった。
 黒子は病気になって病院のベッドに横たわっていた。毎日見舞いに行く黄瀬を見ては申し訳なさそうにしていた。申し訳ないなんて思う必要はどこにもないのにと言えば、それでも困ったように笑う黒子が見ていて痛々しい。もっと黄瀬に頼ってくれてもいいのにと、黄瀬はいつも思っていた。時間は日に日に無くなっていって、黒子の容体は目に見えて悪くなっていった。
 一緒に暮らす様になってから数年が経っていた。元気だったのは本当に少しの時間だったと思う。幸せな日常はほんの少ししかなかった。仕事は忙しかったが楽しい時間だった。家に帰れば黒子が居て、笑っておかえりなさいと言ってくれるのが嬉しかった。

「家に帰りたいです」

 そう黒子が望んだから、無理を言って家に帰った。自分では歩けない黒子は、起き上がることもできない黒子は、ずっとベッドの上で寝たきりになっていた。それなのに黒子は嬉しそうで、黄瀬も嬉しくなった。
 黄瀬くんは片付けが下手ですね、と二人の部屋を見た黒子は笑った。ボクがいないと駄目ですね、とらしくないことを言った。家で過ごしたのはたった二日だった。黄瀬が付き添っていた昼下がり、黒子は静かに息を引きとった。
 穏やかな光が差しこむ部屋はとても静かで、時が止まったような気がしてしまう。黒子がもう命をなくしてしまった事実を理解したくない黄瀬は、何度も黒子に声をかけた。起きることのない黒子にとうとうその死を認めざるを得なくなった黄瀬は、黒子の手を組ませて安らかな眠りを祈った。
 気がつけばもう夜になっていて、窓から差し込む光は街灯の明かりになっていた。差し込む明かりがぼんやりと黒子を照らしだす。黒子がとても神聖に見える。手を触れてはいけない聖なるもののように見える。それくらい眠っている黒子は美しく見える。

「ねえ黒子っち。幸せだった?」

 問いかけたって答えは返ってこない。

『黄瀬くんは寂しがり屋ですね』

 しょうがないな、とでも言いたいような顔をして黒子は言った。言った後によしよしと黄瀬の頭を撫でた。

「黒子っちがいてオレは幸せだったよ」

 ベッドサイドに置かれた花瓶から花を一本抜き取る。黒子が好きだと言っていた花だ。白い肌に鮮やかに映える。
 かすかに香る花の匂いがする。時を止めたような部屋はただ静かに黄瀬のすすり泣きを聞いていた。


 黒子テツヤを埋葬せよ






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