緑間真太郎という男は実に良く分からない。我儘だと思えばまたあるときは驚くほど気をつかう。我儘なのか我儘ではないのか分からない。基本的には我儘なのに変な所で気をつかうから面白いと言えば面白い。まだまだ緑間真太郎という存在については謎が多いのだ。
 今日も今日とて緑間は我が道をゆく。朝から高尾をいつものように運転手として使うし、自動販売機までおしるこを買いに行かせた。こういう我儘を言うということはそれだけ気が許せる相手であるとも考えられるので高尾は嬉しい。もしも高尾をかわいそうだと言う人がいるならば、それは何も分かっていないのだ。
 そんな高尾は先ほどから緑間をさりげなく観察している。無心で弁当を食べているように見えて実の所緑間の意識は近くで弁当を食べている女子の会話に集中している。他愛ない女子の会話だが、よくよく聞いてみれば新しくできた甘味所の話をしているようだ。なんでも雰囲気が素敵だとか、出てくる甘味がとても美味しいだとか。
 なるほど。高尾は納得する。甘いものが好きな緑間にしてみれば行ってみたい場所なのだろう。だがどこにあるのかとか、お店の名前はなんなのかとかが一向に分からないのだろう。自分から女子に話しかけるタイプではないのだし。それでもそこに行ってみたくて必死に聞き耳を立てているらしい。何とも可愛らしいではないか。

「ねえ、そのお店どこにあんの?」

 高尾は軽く女子たちに話しかける。緑間がじっと高尾を見てきた。少し不機嫌そうな表情から、余計なことをするな、と言いたいのかもしれないが、それで店の名前と場所が分かるなら、とも思っているようにも見える。

「へー、結構遠いんだな。ありがと」

 高尾は女子に笑顔を向けて緑間に視線を向ける。

「お店4駅くらい向こうにあるんだって。今日練習ないし行く?」
「……。遠いだろう」

 行きたいと顔に書いてある。それなのに何に気をつかっているのか渋る。恐らくバスケに関係ないことに高尾を突き合わせることに躊躇している。4駅分リヤカーを引くのはかなり大変だ。海常には問答無用で引かせたくせに。プライベートのことで高尾にどこまで我儘を言っていいのか分かっていないのだ。

「いいじゃん、行こうよ。リヤカーは駅にとめて電車で行こうよ。で、また電車で戻ってきたらそこからはリヤカー引くからさ」

 それを聞いてもまだ渋る。緑間は決定的に人との付き合い方が分かっていない。一応恋人なんだからもっとプライベートなことでも我儘言ってくれていいのに。高尾は少し不満だ。

「オレが行きたいんだって。だから付き合ってくれよ。な?」

 そこまで言えば緑間はしょうがないという様子を装って頷く。素直じゃないんだから。

 放課後、電車に揺られて、しばらく歩いて。二人は女子に教えてもらった甘味所にやって来た。まだ新しいらしいそこには女性ばかりで二人はかなり浮く。高尾は少し気後れしたが、それ以上に緑間はためらいを顔に出した。ラッキーアイテムのためなら女性ばっかりの雑貨店にだって問答無用で入っていくのに。そんなところも面白い。

「ほら、行こうぜ」

 腕を引っ張って店の中に入る。ありがたいことに待たずに席に通される。窓際の二人席。こじんまりとした日本庭園が窓の外に広がっている。

「真ちゃん何にする?オレはあんみつかな」
「……ぜんざいだな」

 あいにくおしるこはない。おしるこに一番似ているぜんざいにするのはなんだか納得だ。

「おー、結構量あんのな」

 運ばれてきた甘味は女性には多いんじゃないかと疑うくらいのボリュームである。心なしか緑間が嬉しそうだ。目が輝いている。上品な香りが食欲をそそる。
 一口運べば高校生には贅沢過ぎるくらいに大人びた甘さが広がる。ああ、緑間が満足そうにしている。 緑間の視線が一瞬高尾のあんみつに注がれた。多分食べたいのだろう。でもそれを口に出して言わない。
 だから、もっと我儘言ってくれていいのに。
 そう思いながらあんみつを掬うと緑間に向かってスプーンを突き出す。

「一口やるからそっちも一口頂戴」
「……っ。高尾、ここをどこだと思っているのだよ」
「え?いいじゃん。ほら、向こうの人たちも同じことやってる」

 何か言いたそうな表情をしている緑間に問答無用とばかりに更にスプーンを突き出す。高尾が引かないと分かったのか、緑間は周囲の様子を一瞥して確認した後あんみつを食べた。
 渋っていたくせに、あんみつを食べた瞬間至福そうに目を細める。そういう表情を見るのが好きだ。

「真ちゃん。あー」

 同じようにしてぜんざいをくれと強請っててみる。ものは試し。

「……。ほら」

 ためらい数瞬。ぜんざいのスプーンが高尾の唇に触れる。

「ん。ありがと。おいしい」

 にこりと笑いかければ照れたように視線がそらされる。可愛いなぁ。
 あんみつよりも、ぜんざいよりも、今この瞬間が一番甘かった。


 なにより甘く






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -