高尾和成にとって悪魔と言えば黒ではなく白だ。たった今そう変える。
今までの人生において悪魔と言えば黒を想像しただろう。誰が決めたのか分からないそのイメージ色を寸分も疑うことなく受け入れていただろう。今隣に存在している彼は、高尾の中のちょっとした変革など知ることもなく悪魔は黒と信仰しているかもしれない。そうかもしれないが、誰が何と言おうと白い悪魔はいる。そんなはたから見ればどうでもいいことを高尾は考えていた。
「どうした」
不意に隣から緑間が声をかけた。
現在二人は所謂デートのために出かけているのである。町の中心からは離れている住宅地にやや近い雰囲気を醸し出している、そんなところに来ていた。
そこには少し名の知れたカフェがあって、二人でそこに行こうということになっていたのだ。しかし来てみればどうだろう。貸切で結婚式が執り行われている最中だったのだ。
楽しみにしていただけに高尾のショックは大きい。内心緑間もがっかりしているだろう。もちろん顔に出すような彼ではないが。
高尾が白を悪魔だと思ったのは道を歩いている新郎新婦の恰好が、白のウエディングドレスに白のタキシードだった。それを見て苦い思いに駆られたのだ。
高尾と緑間は付き合っている。同性同士で付き合うという非日常性は二人にとって少しばかり重いものであった。それでもかまわないから付き合っているのだが、それでも重いのだ。
同性同士であるからには望めないものがある。そのハイエンドをせっかくのデート(チャリアカーでない)で見せつけられてしまってはテンションも下がるというものである。
「いやー、貸切とか誤算だったわ。電話で確認すればよかったな」
「別にそこまでする必要はないのだよ」
新郎新婦が道路に止めてあるオープンカーにたどり着いた。花嫁が振り返る。お約束の様にブーケを投げた。
それをどうというわけでもなく、ただ惰性で二人眺めていた。
高く高く舞い上がって、突然の突風に吹かれて、空中を舞い踊ったブーケは緑間の手中にあった。
「…」
「へ」
片や声なく、片や声を出して驚いた。
ブーケを受け取ったもののジンクスを思い出しながらただ唖然とする姿を、後から滑稽だったと笑う高尾がいたとかいなかったとか。
白い悪魔の思惑は
(吉と出るのか凶と出るのか)