女体化百合

 少女は窓辺と文学からできている。そんな言葉が不意に思考を支配する。もしも声に出して言ってみれば誰かに笑われてしまうだろう。少女と言えばお砂糖にスパイス、素敵なもの何もかもという一節が思い浮かぶ。高尾はもちろんそれに異を唱えるつもりはないし、むしろ正しいことだと思う。それでもなお頭の中に少女は窓辺と文学からできている、という文字がふわふわ浮いている。
 何故高尾がこんなことを考え始めたかというと緑間のせいである。昼休みになって昼食を終えた高尾はロッカーに置きっぱなしにしている教科書を取りに廊下に出て、今まさに席に戻ろうとしていたところだ。緑間と高尾は窓際の席に席替えで移動した。前後席であることに高尾は秘かに舞い上がったものだ。緑間は文庫本を読んでいる。窓から入ってくる光で一緒の芸術のように見える。白い肌、艶やかな髪、スッと伸びた背筋。全てが美しく、成長途中の未完成な姿でありながら完成された少女。
 きっちり着られているセーラー服。校則ピッタリの丈のスカートと黒いストッキングに包まれた長い脚。全てが少女として完成されている。清楚で瑞々しく穢れを知らない。それでいて手を出す者に対しては毒を向ける。身の内の毒をうっすらと見せながらもなんてことのない顔をする。
 今日読んでいるのは高尾には良く分からない横文字の名前の作者の作品らしい。文学だと緑間が朝言っていた。読書をする緑間はバスケをしている時には見せない穏やかさを見せる。今までその姿を意識したことがなかったのに、やけに今日は見とれてしまう。
 高尾は今まで少女がどんな存在かなど考えたことはない。少女はこうあるべきだなんて考える必要はない。しかし、静かに本を読む緑間を見た途端、緑間は少女だと思った。少女を構成するものが文学だというならば水色の髪の彼女の方がよほど少女だという人がいるかもしれない。だが、高尾には水色が見の彼女より緑間の方が少女に見える。自分より背が高い緑間はおよそ少女というには小ささに欠けるかもしれないがやっぱり少女だ。

「何をじっと見ているのだよ」

 不意に緑間が顔を上げる。文庫本に注がれていた視線が今度は高尾に注がれる。

「な、なんでもない。ちょっとぼーっとしてただけ」
「授業中寝るなよ」

 また文庫本に緑間の視線が戻る。どうやら高尾が眠くなっていると考えたらしい。緑間の事を考えていてぼーっとしていたなんて想像していないだろう。
 緑間の前にある自分の席に腰掛けて後ろを向いて緑間を眺める。長い睫も黒縁のメガネも全てが少女だ。触れてしまったら壊れるような脆さがあって、繊細だ。緑間のどれもが高尾にはない。
 高尾は不意に絶望する。自分は少女になれない。少女としての緑間を構成する何もかもが自分にはないと思った。どこまでも自分は少女には程遠い。少女という生き物になれないのなら緑間と同じところにはいられない。緑間と限りなく重なっている別世界にいるような感覚。
 少女になれないのならば、高尾は思案する、せめて緑間と緑間の中の少女を守る存在になりたい。高尾は秘かに決心する。誰にもこの繊細で儚い少女に触れさせないと。
 予鈴が鳴って高尾は前を向いた。


 少女とはなんと定義するものか






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