家にいると年賀状がたくさん届く。自分のものはもちろんだが両親にだったり妹にだったりとにかくたくさん届く。駅伝を見るのに忙しい父親と、新年早々食事の準備で忙しい母親と、新年早々に大量に新聞に挟まっていたチラシを見るのに忙しい妹の代わりに高尾が年賀状の選別をする。父親宛、母親宛、妹宛、自分宛。やはりと言うべきか両親に宛てられたのもがダントツで多い。社会人というのは人脈が広いのだなあと毎年ながら感心する。一番少ないのは高尾宛だ。クラスでもいろんな人と話すがその実年賀状を送り合う程仲の良い存在というのはあまりいないのである。自分宛の年賀状は主にバスケ部員からである。
宛名別に分けた年賀状をリビングの机に置く。自分宛の年賀状を持ったまま高尾は自室に足を向けた。
くるとは思っていたのだが、実際にくるとその嬉しさは言い表すのが難しいくらいだ。一番上に重ねた年賀状を取って他の年賀状を机に置くと椅子に腰かける。
高尾が手に取ったのは緑間からの年賀状だ。学校で住所の交換をしたのだからポストに入っていて何ら違和感があるという訳ではない。だが、あの緑間から年賀所が届くのは一種奇跡的なものを感じてしまう。他人を傍に寄せ付けない緑間からの年賀状。高尾は緑間が傍に居ることを許してくれている何よりの証拠だと思った。
くるりと裏返すと干支の絵が印刷された面が現れる。あけましておめでとうの文字が踊る。几帳面な緑間の字がメッセージを告げる。
「……」
高尾はそれを読んでニヤニヤが止まらない。嬉しすぎてにやけずにはいられない。徐に机の上の携帯を掴むと緑間の電話番号を呼び出して電話する。
「……もしもし」
緑間は意外なことに数コールで電話に出た。
「真ちゃん、あけましておめでとー」
「あけましておめでとうなのだよ」
正月だからなのか少し気の緩んだような声が携帯電話の向こうから聞こえてくる。
「年賀状ありがとう。すっげー嬉しかった」
早速要件を告げると緑間が言葉に詰まる気配がする。何を言おうか決まらないで困っているようだ。
「いやー、オレって愛されちゃってるな」
「……い、今すぐそれを捨てるのだよっ」
慌てたような緑間。年賀状に記されていたのは緑間が普段言えない素直な気持ちで、それを指摘されると恥ずかしいらしい。予想していた通りだ。普段はマイペースで毅然とした態度を崩さない緑間だが、新年早々高尾のペースに巻き込まれて年相応な反応が窺える。
「オレこの年賀状額に入れて飾るわ。貴重な真ちゃんのデレだからな」
「何を言っているのだよ。それは捨てろっ」
「あ、読みあげていい?」
「やめろ高尾。そんなことはしなくていいのだよ」
他愛ない掛け合いをしばらく惰性的にだらだらと続ける。こうして話していると緑間も自分もまだまだ子供だなと思う。あと数か月で学年が一つ上がるだなんて信じがたい。だが、そんなことは今はどうでもいい。
「ところで真ちゃん、初詣にはもう行った?」
「いや、まだだ」
「じゃーさ、デートも兼ねてオレと一緒に行きませんか?」
携帯電話の向こうは沈黙。デートなんて言ったのはまずかったか。少し浮かれすぎてしまっただろうか。緑間が沈黙するのはよくあることだが今はその沈黙が痛い。
「真ちゃーん」
呼んでみる。何故か、う、という声が聞こえてきた。迷っているのか、行くという意思を伝えるタイミングを逃したのか。高尾はもうひと押ししてみることにする。
「一緒に行こうぜ。オレは真ちゃんと初詣したいな」
「……そこまで言うのなら、行ってやらんこともないのだよ」
「やったね。真ちゃん大好き。じゃあ14時に駅な」
「分かったのだよ」
それから一言二言会話を交わすと通話を終了する。高尾はガッツポーズをしながら携帯電話を机に置く。
高尾はいつも家族と初詣に行くので家族以外と、それも緑間と行けることにすっかり舞い上がってしまった。初めての家族以外との初詣が緑間とである。嬉しい。高尾は足取り軽く部屋を出ると両親に事の次第を伝えに行った。
新年の歓びは君と共に