「高尾、一体どこに行くつもりなのだよ」
 夜の街には人気がない。静かな街には自転車をこぐ音だけが響き渡っていた。
 体育館は点検のため明日は一日オフの日。疲れた体を存分に休めろ。そう言われたはずなのに、高尾は休む気がないようだ。
 午前三時。夢の中にいた緑間を、無粋な携帯電話の着信音が夢の世界から現実に引き戻した。不機嫌ながらも律儀に緑間は電話に出た。
「もしもし真ちゃん?今からおまえん家に迎えに行くから外に出る準備しとけよ」
 そう言って高尾は電話を切った。こんな時間に何を考えているのか。こんな時間に起こすとは何事だ。色々言いたいことはあるのだが既に電話は切られている。これでは文句は言えなかった。
 高尾のことだ、来ると言ったら来る。しょうがないので緑間はパジャマから普段着に着替える。外に出る準備をしろと言うことは外に行くことになるのだろう。十月になって空気は冷えだした。少し暖かい恰好で行くべきだろう。いそいそと着替えてからそっと部屋を抜け出す。両親に見つかったら厄介だ。
 玄関に出て家の門の前で高尾を待った。少し肌寒いな、と思っているとリアカーをつけたいつもの自転車で高尾がやって来た。
「あれ、真ちゃん待っててくれたの」
「こんな時間に何を考えているのだよ」
「まーまー。いいから乗って」
 有無を言わせず高尾は緑間をリヤカーに乗せると漕ぎ出した。どこへ行くのか尋ねても秘密と言って教える気配はない。
 何度目かの「どこへ行くつもりなのだよ」は功を奏さず緑間は沈黙する。高尾の考えていることは全く分からない。もう成り行きに任せようと思ったのだ。
 リヤカーに揺られること数十分。住宅街の奥へと進んでいった高尾は現在長い坂を登っている。高尾は熱いのだろう、気がついたら腕まくりをしている。対する緑間はやはり肌寒い。
「つ、ついた…」
 ようやく止まった自転車とリヤカーは公園の入り口にいる。疲れたのだろうか、高尾は荒い息でぐったりしている。
「ここまで連れてきて何のつもりだ高尾」
「……。ふう。こっちきて」
 息を整えた高尾は緑間の手を握って公園の中に入っていく。ぐんぐん進んでいった先にはジャングルジムがある。
「真ちゃん登って」
 言うなり高尾はジャングルジムを登りだす。緑間もつられて登った。
「ほら、上見て」
 ジャングルジムの一番上までたどり着いた高尾は腰掛けると空を指さす。緑間はその動きにつられてジャングルジムに腰掛けながら空を見る。
「これは……」
 緑間は息を呑む・
 空に広がっているのは一面の星。キラキラと瞬いている。黒い夜に浮かび上がった光の粒が緑間の目の中に振ってきている錯覚を起こす。
 高尾が時計を確認しながら言う。
「時間ピッタリ。この時間、天の川が綺麗に見えるんだと」
「それでわざわざ。何故もっと早く言わなかったのだよ」
「え、いや、ビックリさせようと思ってさ」
 ムッとした緑間に高尾は弁明する。少し慌てた様子だったがすぐににっこり笑う。
「オレたち、同じチームになって半年経つんだぜ。だから記念にって思ってさ」
「……そうか。そんなに経ったのか」
 緑間がしみじみと言う。高尾が突然抱きついてきた。
「これからもよろしくな、エース様」
 驚いた緑間の動揺を感じ取ったのか高尾が身を離す。その時高尾の瞳の中にも星が瞬いていた。
 それを見て、ああ綺麗だなと思いながら緑間は口を開いた。


 銀河、午前4時






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