180Qネタバレ


 最近緑間が何かを悩んでいる。それは高尾が感じている予感であり確信でもあった。頭のよい緑間がその頭脳をもってしても解決が困難な何かを悩んでいるのだ。
 いつもだったらすぐに茶化しながらも何を悩んでいるのか聞き出すところだ。しかし、高尾はそれができずにいた。
 緑間が悩んでいる素振りを見せ始めたのはトーナメント表を見た時からだ。大体察しはつく。準々決勝で当たるのは洛山高校。チームメイトであり、キャプテンだった赤司征十郎のいるチーム。なにか思うところはあるだろう。秀徳にいる誰よりも赤司の力を知っているはずだ。いつもは尽くしている人事に基づいて自信を持っている緑間も不安に思うことがあるのかもしれない。
 中学の緑間は対戦した時の事しか知らない。自分の知らない時間の緑間がいる。秀徳じゃない緑間なんて高尾にはもう想像できない。それくらいたくさんの時間を過ごした。だから、知らない時間の緑間を垣間見るのは少し辛かったし、聞きたくもなかった。だから高尾は緑間に何を悩んでいるのか聞けなかった。

「高尾…」

 自主練中、緑間が突然高尾に声をかけてきた。その瞳には何か決意が浮かんでいて高尾は思わず背筋を伸ばす。

「どうしたよ。まだシュート練終わってねーじゃん」
「話があるのだよ」

 そう言って緑間の視線の強さが増す。

「わーった。聞くよ」

 そう言うと緑間の瞳の中に少し安堵が混じる」

「おそらく秀徳は準々決勝まで勝ち進む。このチームに人事を尽くしていない者などいないからな。そうなれば、赤司のチームと対戦することになる」

 赤司の名前が出たことに高尾は少しの嫉妬を感じるが黙っている。緑間の口からキセキの世代の話が出るほどに嫉妬する自分を軽く笑いながら。

「赤司は一筋縄ではいかない。どんなにこのチームが人事を尽くそうと、今のままでは勝てない」
「…なんだよそれ。真ちゃんにしては弱気発言」
「…。高尾」

 緑間が言いよどむ。

「オレと、さらなる人事を尽くさないか?」

 緑間が一体何を言っているのか分からなくて高尾はポカンとした後、笑いだした。

「ぶはっ。なんだよそれ。どんな誘い文句っ」
「笑うな高尾。人が真面目に話しているというのにっ」
「ワリーワリー。で、どんな人事を尽くせって?」

 緑間は咎めるような目で見ていたがやがて口を開いた。

「ボールを持たずにオレはシュートモーションに入る。オレの動きに合わせてパスを出せ。そのボールをそのまま撃つ」

 突拍子もない発言に高尾は言葉を失う。一体緑間は何を言っているのか分からない。

「えーと、つまりだな。真ちゃんがボールを打つ瞬間におれがパスを出して真ちゃんの手にボールをドンピシャにパスするってこと?」
「そうだ。人事を尽くせば不可能ではない」

 信じられない発想。かまえた位置にドンピシャにパスをするなんてできるとは思えない。

「オレはオマエを信じている、高尾」

 緑間の目はどこまでも本気で、できないと思っていない。その目を見ていたらできる気がしてくる。

「ははっ。ホント、オマエってサイコ―だな」
「高尾?」

 高尾が額に手を当てて嘆息する。

「やっぱオマエにはかなわねーよ。いいぜ。その話乗った」
「高尾」

 緑間が驚いたように高尾の名前を呼ぶ。あんなに自信を持って言ったくせに本当は不安だったのかもしれない。

「昔言ったよな。そのうち思わず唸るようなパスしてやっから、って」
「ああ…」
「うなるようなパス、してやるよ」

 だから、その時こそ、オレを認めてくれ。高尾はその言葉を胸の奥にしまって、緑間に笑いかけた。


 その信頼が何より欲しかったのです






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