気が付いた時には高尾は傍に居なかった。どこを探しても、緑間の周りには高尾は居なかった。どうしてかと問われれば、簡単なこと。緑間が高尾の傍に居ようとしなかったからだ。求められることに慣れきってしまった緑間は高尾を求めるということをしなかった。その結果、高尾は今緑間の傍には居ない。
 毎日の様に来ていたメールも、卒業を期に来なくなってしまった。大学に入って忙しい日々。その事の重大さにすら気が付かないままに日々は過ぎていった。
 高尾は最後に寂しそうな顔をして「じゃあな」と言った。それが最後。緑間の世界から高尾が消えた。
 そのことに気が付いたのは、中学校の同級生に偶然会った時だった。

「緑間君、高尾君は元気ですか?今日は一緒じゃないんですね」

 一緒にいることが当たり前だったのに、離れてしまって、それすら気が付かなかった。その事の重大さに気が付いた時には既に時遅し。大事だったはずの彼は世界から消えてしまっている。どこにもいない。メールを送ってみても、宛先不明で戻ってくるだけだ。
 どこだ。彼はどこの大学に行くと言っていたのか。記憶をかき集めて手当たり次第に探る。どこだ。彼はどこへ行くと言っていたのか。
 思い出だけは沢山あるのに、肝心の彼はどこへ行ってしまったのか。
 充実していたはずの毎日が音を立てて崩壊していく。高尾がいない事実は世界から色を奪っていく。どうしてだろう。どうして高尾を自分からも求めようとしなかったのだろう。もし求めていたらきっと傍に居てくれたのだろうに。
 おぼろげな記憶が高尾の進学先の大学を奇跡的に記憶していた。少し離れた県にある大学だ。そこそこバスケも強い大学だと記憶している。まだ高尾はバスケをしているだろうか。
 手を放してしまった代償は大きい。過去の光を取り戻すにはそれなりの代償がさらに必要だ。上手くいくかは分からない。だけれども、高尾に会いに行こう。緑間はそれを決めた。
 高尾が傍に居なくなって、気が付かされた。緑間には高尾が必要なのだと。それに気が付くのにどれだけかかったことだろう。忙しさを理由にして気が付くのを避け続けた。それを終わりにしよう。
 高尾に会いに行こう。会いに行って伝えるのだ。ついぞ伝えなかった一言を。そして、やり直すのだ。今ならまだ間に合うかもしれないから。伝えるのだ。

「ありがとう」


 街の野良猫の叫びより



イメージソング:KOKIA ありがとう






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