朝が来なければいいのにと思うのは自分だけだろうか。緑間はそう考えながらベッドの端に座っている。
 手にしているのは携帯電話。先ほど部活からメーリスが回ってきたばかりで、開かれた携帯電話の画面には文章が並んでいる。やがて光を失った画面を見て、緑間はため息を一つ。
 時間が止まったり遅くなったりするわけがないと分かっている緑間ではあるが、朝が来なければいいのにと切に思う。朝など来なくていいのだ。
 何故、朝が来なくていいのかと言えば、会いたくない人が朝になったらやってくるからだ。彼は緑間を迎えにやってくる。そうさせたのは自分なのに、彼がやってくるのが酷くわずらわしく感じてしまうのだ。分からない感情の正体は未だ見当すらつかない。彼がやって来る度に生じるこころの奥のざわめきを未だ緑間は突き止められないでいる。一体どんな本を読めばその正体が書いてあるのだろうか。皆目分からない。
 携帯電話の電源ボタンを軽くひと押し。メール画面が待ち受け画面に切り替わる。
 彼は毎朝迎えに来る。自転車にリアカーをつけて。まるでおとぎ話の王子の様に。乗っているのは白馬ではないけれど、自転車が白馬に、リアカーが馬車に錯覚したことがあるなんて秘密だ。
 緑間には朝が憂鬱だ。迎えに来てくれることに喜びを覚えながらも、彼の顔を見るともやもやする。その正体は分からない。
 パチン。携帯電話を閉じる。閉じた瞬間、携帯電話がメールの受信を知らせる。緑間はうっとうしく思いながらも携帯電話を再度開く。

「明日雨だって。徒歩になるけどいい?いつもより15分早くむかえにいくから」

 普段の性格とは一変して、大人しい文面。彼のメールは以外にも簡素で気持ちのいいものだ。よくメールを送ってくる旧友の金色の彼のメールは賑やかで鮮やかだった。彼もそれくらい賑やかで鮮やかなメールを送ってくると思っていた緑間は初めのうち随分驚いたものだ。慣れた今でも時々意外に思うくらいには意外である。
 短い文で了解の意を返信すると緑間はベッドに横になる。
 朝なんて来なければいいのに。分からない感情に振り回されるのは好きではない。でも、早く朝が来ればいいのに。
 憂鬱と期待が混ざり合って溶けていく。後に残るのは夢だけだ。


 人魚姫の憂欝






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