「ねえ、鬼道さん」
「なんだ」
「好きです」
「知っている」


 そういって鬼道さんは視線ひとつ動かすことなくノートにシャーペンを走らせる。帝国をもっと強くするための方法を考えてるのだ。今はシャーペンの動きからしてフォーメーションについて考えているに違いない。
 鬼道さんとオレは部活が終わった後、1時間余計に残ってフォーメーションやら新しい必殺技を考えている。
 以前は鬼道さん一人でやっていたのだが、半ば無理やり参加している。
 というのも、オレが鬼道さんの恋人になれたおかげたと言っていい。恋人なら一緒に少しでも長くいたいから。そんな昔から使いまわされてきたような、典型的で陳腐なセリフが功を奏したらしい。
 鬼道さんは皆から慕われている。そんな鬼道さんを独り占めしようと思ってもなかなかできるものじゃない。そんなオレにとってこれは至高のひと時と言って過言ではない。


「そんなに暇なら帰ってもかまわない」


 唐突に鬼道さんが言った。いつもと違って真面目にフォーメーションを考えるでも、必殺技を考えるでもないオレに何か違和感でも感じたんだろう。
 聡い人だ。


「いいえー。帰りませんよー」


 間延びした声で答えれば何も言わない。もうフォーメーションに集中してるのかもしれない。
 机に臥せって目線だけを鬼道さんに向ける。


 今日は、ふっと嫌な予感がしたのだ。そして、何より最悪なのはそれが本当になるだろうということが分かってしまったのだ。
 鬼道さんは、帝国学園の支配者たるあの人は、きっと遠くないうちに手の届かない所に行ってしまうだろう。どこか、ちがうフィールドを走る人になってしまうのだ。鬼道さんのボールでツインブーストを打つことも、デスゾーンを打つこともない日がやってくる。そんな予感だ。
 だから、いつもなら積極的に考えていたこの時間も、なんだか切なさを覚えてしまう。
せめてこっちを向いてくれたら。そう思いながら鬼道さんを見つめるうちに視界がぼやけてきた。あ、オレ眠いのかな。
 そう思っていたら、鬼道さんの手がオレの頬に触れていた。


「どうした、佐久間。泣いているぞ」


 ああ、オレ幸せです。だからもうちょっとだけこのままで。


放課後スイートレイン






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