バダップは普段眠る体制に入るとすぐに眠りに落ち、起きる時間になるか何かを感じるとすぐに目を覚ます。必要に迫られなければ人がいるところで眠ることはない。だからバダップの寝顔というものはレア中のレアである。
 しかし、バダップには寝顔を見せる唯一の人物がいた。それがミストレである。彼に対してはあのバダップが寝顔を見せるのである。それはまあ、恋人であるからなのだが、バダップを知る者は誰でも驚くだろう。


「寝顔まで綺麗なんて本当に君には敵わないな」


 そう呟いてバダップの頬をゆるりと撫でる。


「ん……」


 バダップが身じろぎをした。僅かに赤い瞳が覗いた。


「すまない。起こしてしまったかな。まだ時間はあるから寝てると良いよ」


 そうミストレが言うとバダップの目は閉じられた。注意深く耳を澄ませば規則正しい寝息が聞こえる。
 現在ミストレはバダップの部屋に来ていて、バダップのベッドに入って彼に腕枕をしている。初めのうちは戸惑っていたらしいバダップだが、次第に慣れてきたらしい。腕枕をしているにも関わらず仰向けになって眠っていたのが、最近ではミストレの方を向いて眠る様になった。それがミストレには嬉しかった。自分がいるところで眠ってくれるようになるにも時間がかかったのだ。バダップと付き合うのに必要なのは理解と忍耐だと思う。キスすら知らなかったのだから。
 こうして一緒に寝ていると愛しさが募ってくる。愛しくて愛しくてしょうがない。愛情に疎い彼に自分が愛情を与え、教えているのだと思うと嬉しくてしょうがない。ミストレの独占欲が満たされていくのを感じる。
 キスをしたい気持ちを抑える。きっとキスをすればいくらミストレに気を許しているバダップでも起きてしまうだろう。それは間違いない。それでもキスをしたい気持ちが抑えきれなくなって、起こさないようにそっと気を付けながら、髪の毛にキスして、ミストレもまた眠りに落ちたのだった。

束の間の楽園を求める権利は手放さない






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