バダップは何を考えているか分からない。おそらく素で無表情なんだろうが、全く考え、感情が読めないのはもどかしい。
バダップを観察する理由はバダップを超えるためだった。バダップを超えるために少しでも弱点はないかって考えたのだ。バダップを超えるためと思えば普段以上の努力ができる気がした。
それが変わったのはいつからだっただろうか。過去から帰ってきてしばらくたってからだと思う。バダップの弱点よりもバダップの感情だとかが気になるようになったのだ。バダップはオレと話していて何を感じるんだろうとかオレのことをどう思っているんだろうとか気になってしょうがない。
これが恋だとは気付かなかった。まさか男に恋をするだなんて誰が予測しただろうか。気が付いた時の衝撃と言ったら。エスカバとか他のオーガの奴らには理解できないだろう。こういうのは当事者しか理解できないと思う。
それで、バダップに対する恋心が実るかと言えば、可能性は限りなく零だろう。だってあのバダップだ。恋なんてするだろうか。否、彼だって人なのだから恋をするだろう。だがオレに恋をするなんてありえない。
しょうがないのだ。彼は国の未来を一番に考えている。オレなんてしょせん国の未来を背負った若者の一人に過ぎない。だが、彼はオレとエスカバに最初に目を付けた。オペレーション・サンダーブレイクは苦い思い出となったが、最初にオレたちに極秘の作戦を話してくれて引き入れてくれた。その程度にはバダップの視界に入っているのだと思うと嬉しい。苦い思い出だが忘れたくない。そしてオレは満足するということを覚えなければいけない。この嬉しさを胸に抱いて満足しなければならないのだ。求めればどこまで行っても満足なんてしない。だからここらで身の程をわきまえて満足しなければ…。
「ミストレ」
噂をすれば影。思い人の登場だ。バダップを見ると胸が苦しくなる。同時に嬉しくなる。今回は何の用事だろうか。
チーム・オーガが解散してもなんやかんやでオーガの面々とは繋がりがある。バダップも例外ではない。
「やあ、何の用だい」
「話がある。場所を変えよう」
「珍しいね。君から話があるなんて」
表情は読めないまま、バダップについていく。人がめったに来ない部屋に来た。思い出した。オペレーション・サンダーブレイクについて告げられた部屋だ。懐かしさを覚える。また何か作戦でもするんだろうか。
「ミストレ」
バダップがまっすぐオレを見つめる。心なしか緊張しているように見えるのは気のせいだろうか。これでもバダップの表情を見極めるのは上手くなったと思うのだが。
「他人に言われて気が付いたのだが…」
「はあ」
話し出したと思ったら何故か言い難そうに目をそれされた。らしくない。いったい何を話そうというのだろうか。
「…」
「言いよどむなんてらしくない。はっきりいったらどうだい」
「…オレは、どうやら君に対して恋愛感情を持っているようだ」
「っ……」
「もしもオレに対して恋愛感情を持っているなら、恋人になってほしい。…その、オレはこういうことに疎いから迷惑をかけるかもしれないが…」
思ってもみなかった衝撃。頭が現実についていけない。何とかフリーズした脳を再起動させて現実についていかせようとする。
だがバダップはそれを拒絶と捉えたらしい。すまなかったと言って踵を返す。
今を逃がしたらオレの思いはかなえられない。
この後バダップの腕をつかんで勢い余ってキスを仕掛けるなんてやっぱり思ってもみなかった。
予測不能論理