ミストレが風邪をひいた。常に一番になりたがるミストレにしてみればたかが風邪ですら一種屈辱であった。
 ミストレが風邪をひいていると発覚したのは授業中だった。どうも今日はふらふらしていると感じてはいた。だがまさか熱があるなんて思ってもみなかったのだ。授業で当てられて、答えを言っている最中に倒れたのだ。親衛隊の女の子たちの悲鳴が聞こえたのを最後にミストレの意識はなくなっていた。
 次に目を覚ました時に見えたのは白い天井だった。救護室だ。なんだか外が騒がしい。浮ついたおぼつかない意識で聞き耳を立ててみれば、親衛隊の女の子たちが見舞いに来ようとしたが、救護室の先生に阻まれているということのようだ。
 一番になるということは弱みを人に見せないことだとミストレは思っている。だから正直、親衛隊の女の子たちが入ってこないのはありがたいことであった。
 もう一度寝よう。そう思ってミストレは目を閉じた。

 再び目を覚ました時外は夕方のようだった。救護室のベッド周りのカーテンの隙間から赤い夕陽が薄らと入ってきている。


「起きたか」


 突然声がして驚いた。熱で頭が回らないためか、入ってきたのではなくしばらく前から居たのであろう気配に全く気が付くことができなかった。


「バダップ…どうして」


 そこにいたのはバダップだった。何故ここに居るのだろうか。というか自分が救護室にいるのを知っているのだろうか。彼は他のクラスのはずではなかったか。


「倒れたと聞いた」


 簡潔にしか話さないバダップからの言葉ではここに居る意味が良く分からない。


「どうして、倒れたのを知ってて、…ここにいるんだい」


 しゃべるのが億劫だ。


「お前の親衛隊が騒いでいたから知った。ここに居るのは見舞いのためだ。」


 そういってミストレを驚かせた後に何故か急に顔が近くなった。


ちゅっ


 軽いリップ音がしてバダップの顔がミストレから離れる。


「早く良くなれ」


 そう言い残してバダップは去っていた。残されたミストレは顔が余計に熱くなるのをただただ呆然と感じていた。

加熱する口づけ








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