仕方なく学校に向かっていた。どうしたって結局罰を受ける。ぐるぐる、グルグル、負の感情が私を支配する。私が一体何をしたんだろう。なんて悲劇のヒロインを演じた所で助けてくれる人もいない。私は所詮ヒロインになれないんだ。
「………?」
ふと立ち止まる。私は確かに学校に向かって歩いていたはずだ。少し違和感を感じて振り向くけど特に変わった所はない。じゃあこの感じはなんだろう?と、足元に落としていた視線を上げると目の前にはお城が広がっていた。
「ん?お城…?なんで…?」
こんなのいつの間に出来たんだろう?私は学校までの道のりをゆっくり歩いてきて、それで…? 道を間違えたってことなのかな?いや、さすがに一年も経って道を間違えるなんて事はないはず。よくわからないまま恐る恐るお城に近付いてみる。校門には秀尽学園高校と書かれていた。あれ、じゃあこのお城はやっぱり学校?………このまま入っていいのかな。でも学校って書かれてるし…………。迷った挙句私はお城の中に入る事にした。
「誰かー…誰かいませんかー…」
中に入ってもやっぱりお城だった。これ入ったの間違いだったのかな。誰か他の生徒がいる気配もない。急に怖くなった私は引き返そうと入り口に駆け寄って扉に手をかけた。けれどあかない。ガチャガチャと音を立てるだけでそれがさらに恐怖心を加速させた。
「なんでなんで!?入ってきたなら出れるはずだよね!?なんでなんで!」
一人慌てふためいていると何処からか甲冑に身を包んだ人が現れる。これで助かると思ったが次の瞬間には腰に会った剣を手に持ち私に向かってきた。
「侵入者だ!」
「え、なに!?」
「捕らえろ!」
「ひっ、やだ、やだやだ!」
あっという間に捕まってしまった。なんというか報われない16年だったなぁ。辛い思いを我慢してここまできたけど未練なんてないかな。強いていうなら鴨志田が法で裁かれれば良いくらい。死ぬのが怖くないのは、何処かで死にたいと思っていたからなのかな。意識が薄れ行く中そんな風に思った。
気付くと私は牢屋の様な場所にいた。どうやら気を失っていたらしい。
「ってあれ?生きてる?」
自分の手足を動かしてみる。普段と変わらない。それに格好もさっきと同じ、制服のままだった。私はなんでこんなところに連れてこられたんだろう?ていうかさっきまでのお城は?牢屋みたいなここはお城の中?クエスチョンマークだけが浮かび上がる。静まり返った謎の空間に遠くから何か足音が聞こえてきて、私は身構えた。
またさっきの甲冑集団だったらどうしようとか、全然別のまた違うやつの可能性だってある。状況を考えていた為にかき消されていた恐怖心が戻ってくる。冷や汗も震えもとまらない。何の足しにもならないスクール鞄を私は力強く抱き締めた。段々近くなる足音。一人分じゃないと気付いた。呼吸も上手く出来なくなってきて、今度こそもうダメだと思った。
「は?えっ柳原?!」
「!!!?」
「今朝の…」
ギュッと目をつむって覚悟を決めたけど、間違える筈もない、好きな人の声とこの雰囲気に合わない妙に落ち着いた声色。今度は見知った顔を見た事への安心感からか涙腺が決壊してしまった。
「う、うわぁぁあん!!」
「へ?ちょ、おい!」
「泣かないで、大丈夫?立てる?」
「ひっ、く、も、ダメだと、おも、っ、」
わんわん声をあげて泣く私にどうしたら良いのか分からない、と言ったように困惑顔の二人。さっきみたいに手を差し出してくれた転校生の手を今度は受け取った。
「あれ、生きてる…?」
「当たり前だ!こんなとこで死んでたまるかよ」
「一緒にここから出よう」
「うん…でも、牢屋…」
「今開ける。ちょっと待って」
そう言うといとも簡単にかちゃん、と鍵がなる音がする。そっと優しく引っ張られたにも拘らず、元々腰が抜けていて思わずよろけてしまった私を転校生はそっと腰に手を回し支えてくれた。
「っと、出られたな」
「ご、ごごご、めんなさい!!」
「別にこれくらいどうってことない」
「あ、あの、いや、あの、」
「おい、さっさと出んぞ」
「…そうだな」
「あの、出口って…その…」
「……………」
「……………」
無言で目を逸らされた。そうだよね、分かるはずないよね。とにかくいこーぜ、という坂本くんの言葉にやっとこの場から動き出す。前を行く二人の背中がとても頼もしかった。
何処まで続いているのか分からない、気の遠くなるような廊下を三人で全力で走っていると何処からともなく声が聞こえてきた。
「おーいそこの。キンパツと癖っ毛と三つ編み!」
「なんだ!?こいつ!?」
「オマエら、城の兵士じゃねえな!?こっから出してくれ!ほら、そこにカギあるだろ!?」
「外出てえのは、こっちなんだよ…!てかお前、どう見たって敵だろ!?」
「捕まってんのに敵なわけないだろ!助けてくれよ!?」
不思議な…猫?ていうか普通に猫、が牢屋越しにこっちに訴えている。喋る猫が本当にいるなんて思わない。つい近くでしゃがんでしまう。どこからどうみても猫だった。
「猫…?」
「………だよね?カワイイ」
「猫じゃねえっ!次言ったら許さんぞ!」
「もう来やがった…!」
流れでついてきた私は分からなかったけど、二人は何かに追いかけられていたらしい。さっき聞いた二人の足音とは明らかに違う音にびくりとする。苛立ったように坂本くんは携帯を取り出していたけど、どうやら圏外らしい。助けも呼べない私達は立ち尽くした。
「おい、オマエら!出口が知りたいのか?出してくれれば案内するぞ?捕まって処刑はイヤだろ?」
「処刑…」
されるんだ。もしあれが二人じゃなかったらと思うと…。処刑は嫌、とは言えすぐに出会ったばかりの、それも少し不思議な猫の言う事を簡単に信じて良いものなのなんだろうか。
「嘘ならタダじゃおかない」
えっ、と転校生を思わず見あげる。至って真面目の顔つきをしていた。そんな簡単に信じて良いのかなと思う反面、ここで頼りになるのはこの猫しかいない。
「嘘じゃない!本当だって!」
「どうも調子いいな、コイツ…」
「オマエらだけで出られるってんなら、好きにしろよ!」
それはどう考えても無理だ。それにこの自信、きっと嘘じゃないんだと思う。さっきより近くでガチャガチャと足音がなり響いて、私たちはこの猫の言う事を信じる事にした。
「早くしろ化け猫!」
「猫じゃねーよ!ワガハイはモルガナだ!」
「…飼い猫………?」
「猫じゃねーって言ってんだろ!!」
いい加減にしろ、とでも言いたそうだったけれど、ちゃんと出口まで案内してくれるらしい。私達は急いでモルガナの後を追った。
2016.1101