朝、亜紀は腫れ上がった右足を庇うように引きずりながら学校に向かっていると後ろから声をかけられた。


「その足、どうしたんだよ」
「あ………さかも、と、く………」


亜紀は大袈裟に肩を震わせた。竜司の姿に鴨志田に言われたお前のせいという言葉を思い出す。そんな事ないと分かっていても色々と追い込まれ限界だった亜紀は自分のせいだと思い込む様になっていた。今まで見てきた亜紀とは明らかに違うその様子に竜司は一瞬狼狽える。良くみれば目の焦点は定まっておらず、光がない。


「…………ごめん、急いでるから」
「待てよ」
「ほんとに、ごめん、ごめんね、」
「待ってって!!」
「っ、」
「あ、いや、わりぃ…」


急な大きな声に亜紀の肩がびくっ、と揺れた。その怯えた様子に竜司は謝るも二人の間には嫌な空気だけが漂う。竜司に亜紀。悪い意味合いが大きい二人のただ事じゃない雰囲気に登校途中の秀尽生達が注目し始める。その中には三島の姿もあった。いよいよどうして良いかわからなくなってきた時、妙に落ち着いた挨拶をされた。


「おはよう。どうした?こんな朝から」
「暁………」


暁は竜司の隣に立つと始めて駅で見かけた時よりも弱々しくて、部活のやっていないはずなのに右足に包帯を巻いているその姿に驚きながらも、一つの仮説が浮かんだ。それは竜司も同じで、だから引き留めたんだと理解する。


「その右足、どうした?」
「ちが、ちがう、ちがうよ」
「まだ何も聞いてない」
「あ、」


口を滑らせてしまった、と亜紀は焦る。言い逃れが出来ない。二人の視界から消えるように亜紀は痛む右足を無視して早歩きで校門を潜った。暁も竜司も追ってこなかった。


「えーなにあれ、問題児が揃って揉め事?」
「恋愛の縺れとか?うっわー柳原の噂ってやっぱ本当だったんじゃん」
「あんな大人しそうな顔してねー」
「しかも不良の坂本と前科持ちの転校生とか」
「わたしは普通の男に興味ありませーんってか」
「うっわ、ひでーな。俺ちょっと良いなって思ってたのに」
「お前もなんか問題起こせばワンチャンあんじゃね?」
「いやーそこまでして柳原と付き合いたいとおもわねーよ。さすがに暴力とか犯罪とか、ないわ」


聞こえてくる噂話と陰口。何がそんなに楽しいのか笑い声まで聞こえて、竜司が言い返そうとした時、暁が行こう、とそれを制す。此処で大騒ぎしたら今より自体が悪化する事を小声で竜司に伝えると、渋々納得したのか頷く。二人は何も無かった様に校門を抜け、各自の教室にむかった。






竜司とチャットをしながら午前授業を受けていた時。教室入り口側のクラスメイトが急に席を立つ。

「あれ、飛び降りんじゃね…!?」

その一言に教室内がざわつく。

「志帆…!?」

暁の前の席に座る杏が立ち上がり、呟く。聞き覚えのある名前に暁も立ち上がった。そうすると鈴井の奥にもう一つ、人影が見えて、目を見開く。

「柳原さん………?」

ここからじゃ姿しか分からない。鈴井を必死にとめている様にも見える。けれど鈴井は何も聞こえてないのか、聞く気がないのか、その場から飛び降りた。

「志帆!!」

杏が教室を飛び出したのを最初に、全員が教室を出る。廊下に出るとどこの組の生徒も同じのようで牛若が必死に注意をしている。誰も耳を傾けてはいない。

「暁!とりあえず中庭だ!行くぞ!」
「あぁ」

暁と竜司は杏を追うような形で中庭を目指した。



2016.11.14
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