第2話
風呂を上がって居間に行くと松陽が夕餉を並べていた。
「腕は鈍っていないようですね。流石です。銀時には負けると思ってました」
「私も思ってた」
準備を手伝いながら松陽は私に続ける。
「でも、あなたはもうそれを使う必要は無い。なのにどうして鍛錬を欠かさないのですか?」
「できることができなくなるのが怖いから」
「なるほど」
即答した私に松陽は納得したように頷いた。私の言ったことは本音だ。今まで自分で守れていた身が守れなくなったらと思うと、おそろしい。今や遠のいた争いが、近くまでやってくることがあったらどうしようと夢を見る。私は死にたくないし、松陽にも生きていて欲しいし、銀時にだって、生きていて欲しい。あわよくば、幸福に。
「磨けばまだ伸びると思いますけど、いいんです?」
「‥‥刃が自分に向かない最低限でいい」
「おや、貴方は刃を恐れていたのですか」
「怖いに決まってる。ずっと、最初から」
私にはそうするしかなかったから、刀を手放さなかっただけだ。できることなら、刀なんて握りたくないし誰にも握って欲しくない。
松陽は私の濡れたままの髪をそっと撫でた。優しい手つきだった。この人が、こういうふうな目を、手つきをできることが未だに不思議でならない。
「髪、とかしてあげましょうか。それとあと着物、貴方にはきっと藤色が似合う。買いましょう」
「‥‥?どういう風の吹き回し‥‥?」
「貴方の着物、地味すぎるでしょう。櫛も新しいのを買いに行きましょうか」
松陽はなおも私の頭を撫でながら言う。
「せっかく可愛い顔をしているのに、着飾らないのはもったいないと思いまして。それに望まないのなら刀など握るべきではない。もう必要はないですし」
「か‥‥‥‥」
可愛い顔、とナチュラルに言われて顔があつくなる。普段そういうことを言われることがなかったので酷く動揺した。もしかしたら容姿を褒められたのは生まれて初めてかもしれない。松陽は笑顔でさ、銀時は遅いのでほおって先に食べちゃいましょう、と言った。ああ、なんなんだこの人。1人でいただきますと言って、食べ始めてしまうし、なんなんだ、と思いながら私も夕食へ手をつけた。
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