第7話
吉田松陽は捕えられた。幕府、ひいては天照院奈落に。きっと銀時や高杉がそんな事実を知るよしもない。天照院奈落という組織を知るのはまだ先になるだろう。そして私がそれについて伝える義理もない。敵の実態など、敵である時点でさして重要なことではないのだ。物理で仕掛けるなら尚更、より強い力で叩き潰せばいい。
そうして幕府と戦うべく、彼らは攘夷戦争への参加を決意したらしい。
私はもともとそこまで乗り気ではなかったのだが、女のテメーの出る幕はねえという高杉の言葉にカッとなりついていくと言った。言ってしまった。この戦いの行方を一番知っているのはおそらく私であろうに。
「本当に大丈夫なのか?風呂には入れないし飯も満足に食べれないどころか着飾るなど以ての外。年頃の女子の向かうところではない。本当にいいのか?」
桂はそういうふうな調子でずっと心配してきた。なぜ彼にそこまで心配されるのだろと疑問ではあったが大丈夫大丈夫と適当に流した。そんなこと、承知の上だ。
「お前の学びたいことと学べなければ、剣を振るい、人を殺めることになるやもしれん。俺達の誰かがくたばるかも、お前がくたばるかもしれん。本当に、本当にいいのか?」
やたらと過保護にずっと聞かれたが、余計なお世話である。高杉を見習ってみろ。自由にさせてやれ、と放任主義だ。一番楽だ。
けれど一番厄介だったのは銀時だ。戦場に私がついてくるのが嫌らしい。
「ヅラの言う通りだ。俺たちに合わせる必要はねえ。1人にはなっちまうが、お前ならなんとかなる。俺たちに全部任せて、ここで暮らしてても問題ねえんだ」
揃いも揃って、私を馬鹿にしているのかなんなのか。信用がないものだ。私にも相応の覚悟はあるというのに、真っ向から否定するのは如何なものかと思う。
が、彼らにはそういったものは心底どうでも良く、しかもどうやらかなり利己的に私を置いていきたいらしいのだ。心配だから、女だから、と。俺達の頼みだと柄にもなく。
心配されるのは嬉しいが私にだって覚悟はあるし私だって心配なのだ。
「頼む、身勝手だってわかってる。けど本当に嫌なんだ。お前が死んだらどうすればいい」
2人きりのとき、銀時にそう言われた時は情けなさすぎて流石に殴ろうかと思った。というか殴った。ふざけんな。
「そんなこと知るか!なんで私にそう、そんな、‥‥‥‥‥‥」
ぐ、と涙を堪えたが、耐えられなかった。そう言葉を吐いた次の瞬間にはぼろぼろと泣き出してしまって、私に殴られて頬をおさえ床に転がる銀時は大層驚いたようにおろおろしながら悪かった悪かったと謝ってきた。たぶん何が悪かったのかわかっていなかったのだろうけれど、私が彼のエロ本を読んだ時より慌てていたとは思う。

「私はさ、銀時。刀を握りたくはないし、人を殺めたくはないし、死にたくないし、仲間が死んでいくのを見ていたくなんかないけど、それ以上にそれを人に押し付けて自分だけ安全地帯にいるはもっと嫌なの。貴方だって嫌でしょう」
「ああ、嫌だ。嫌だけど、それでも、俺の我儘で、お前にはそれを押し付けたくない。お前がそうする必要なんざねえ」
「ねえ人の話聞いてた?」
うじうじと、全くもってらしくない上見苦しい。お前は一体何歳なんだ。みっつよっつの子供じゃあるまいしいい加減にして欲しい。
銀時は捨てられた犬みたいな目で私を見てきた。しょうがないからそのふわふわした頭を数度撫でる。
「高杉にこんなとこ見られたくないでしょ。もう行こう。明日にはここ出るって」
「ぜっったいに俺とかヅラのそば離れんなよ」
「わかったわかった。銀時のお願い聞いてあげる」
「うるせえ」
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