愛の言葉を知らないふたり IF【超能力のある世界】

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IFの世界観なので「愛の言葉を知らないふたり」の本編とは違う設定が付加されたり、違った関係が構築されている可能性があります。


【超能力のある世界】は普通の「愛の言葉を知らないふたり」にファンタジー(超能力設定が)プラスです。

康介はサトリ(心の声が聞こえる)で、
ある時期、弘文にだけサトラレ(心の声を他人に聞かせてしまう)になります。
書きたい部分だけを抜粋しているので、説明はすっ飛ばし気味です。


IF:超能力のある世界【中学:出会い】


 その人は、オレを一瞥して何もかも理解した顔をした。

「会話を怠けるなよ。べつに絶望なんかしてないだろ」

 オレは人とコミュニケーションをとる必要がない。相手を見るだけで、考えが分かるからだ。言葉という媒体を使って、伝えてもらわなくてもいい。すでに知っている事実をもう一度聞くのは面倒なだけだ。
 
 柄の悪い人間に絡まれて、相手がオレの話を聞く気がないのは心を見なくても分かっていた。
 だから、かけられた言葉は全部、無視していた。
 路地裏に連れ込んでオレを汚す妄想をそれぞれが違ったバージョンで頭の中で展開させていた。
 話し合ってどうにかなるわけがない。
 そんなこと全部わかった上での「言葉」だ。
 
「お前、自分の力に慣れ過ぎて普通の会話能力が低くなってるだろ。声が、出るか?」
 
 出ると口を動かしたが、音は出ない。くちびるが動いただけだ。
 オレの腕をつかんだ三人組の一人を踏みつけたまま、その人は笑った。
 
「もしものときに叫べるように日ごろから、声を出していけよ」
 
 軽く頭を撫でられて「駅はこっちだ。もう迷うなよ」と教えられた。
 安全な道に戻るのだから、それが正しいのにオレは相手の指を握った。
 赤ん坊が指やオモチャを握り込むような反射行動。
 
「な、まえはっ?」
 
 中学に入学してオレは初めて声を出したのかもしれない。自己紹介は必要なかった。教室にいるみんながオレを知っていたので、何も言わないで済んだ。いいや、教師がオレが超能力持ちだという事実を名前と一緒に暴露したので、クラスメイトはオレを知ることになった。
 
 同じ制服を着ている、きっと先輩である目の前の相手もオレのことを知っているのだろう。
 そうじゃなければ、先程の言葉は出てこない。
 オレだって馬鹿じゃない。心を読まなくても人の気持ちぐらいわかる。
 
「なんで、心の声が聞こえないんだ!?」
「あー、そういう体質だ」
「あんた、なんなんだ?」
「……先輩に対して敬意がねえぞ、新入生」
 
 声は威嚇するような鋭さだが、怒ってない顔だ。面白がっているようにも見える。
 オレのような人間に会ったことがないという表情かもしれない。彼の心も名前も何もかも分からない。答えを知るための問題文の作り方は習っていなかった。他人を知る必要などオレにはなかった。でも、今は違う。目の前にいる相手の名前や心を知りたい。
 
「木鳴弘文、大体みんなヒロって呼ぶ」
「わかった、弘文。オレは下鴨康介」
「おい」
「康介っ! おい、じゃない。康介だってば。弘文はバカ?」
 
 あきらかにムッとした顔で「先輩だって言ってるだろ、新入生」と弘文が言うのでオレは呆れた。下鴨康介だと名乗っているのに弘文は物覚えが悪い。たしかにこれなら会話は必要だ。
 
「呼び捨てが気になるなら、康介くんって呼んでもいいよ」
「ふざけんな、アホか」
「アホじゃなくて康介だって言ってるのにバカなの?」
「残念な人みたいな目で見るな。……お前、なんなんだ。さっきまで、人形みたいに生気のない顔をしてたのに」
 
 溜め息をつく弘文が疲れたような表情だけれど、どこか嬉しそうに見える。
 心が見えない分だけ、弘文の表情はよく観察してしまう。
 
「そっちのほうが、人間味があって嫌いじゃねえけどな」
「わかる。綺麗すぎると緊張しちゃうんだろ。黙ってるとオレは神々しいって有名だから」
 
 かわいい、美しいと心の声と肉声の両方で褒め称えられるオレなので、弘文の反応は当然だ。
 同意したオレに弘文がおかしな表情をする。
 単純に呆れた顔とも違う。
 
「お前……友達居ないだろ」
「弘文は今、かわいそうな奴だって、オレに対して思った?」
 
 言い当てられて恥ずかしかったのか、弘文は自分の顔を手で押さえた。
 
「なんで、得意げなんだ……」
「弘文と言葉を交わしたからオレは、弘文の心を手に入れたわけだ」
「心は手に入ってないだろ。……でも、言葉は必要なものだぞ。心は真実の一欠けらでしかないことが多いからな。心だけ見つめてたら、見誤る」
 
 超能力で手に入れる力を過信するなということだろう。
 弘文のように能力が利かない相手がいるのだから、言葉は確かに必要なことかもしれない。

2018/12/15



IF:超能力のある世界【中学:久道への対抗心】


 超能力というのは十人に一人の割合で発生する物理法則を無視する力だ。
 能力のレベルは国が定めており、高レベル能力者は、それなりの社会的な地位が用意される代わりに国家のために力を使うことを求められる。
 
 オレは高レベル能力者だが、下鴨という家のおかげで国家の犬になることはない。
 基本的に協力の要請は下鴨が断る。
 高レベル能力者は国のために働くのが義務だと言うが、それは超能力で人に迷惑をかけた際に国が能力者を守るからだ。
 能力の暴走などありえないオレには関係のない話だ。
 
 
「ヒロ……俺、天使にすごい睨まれてるんだけど」
 
 
 弘文の隣にいる人間が気になってしまったのは、弘文の心が読み取れないからだ。
 弘文の心が分からない代わりに隣の人物の心を拾う。
 むかつくことに弘文の心情の解説を丁寧につけてくれる。
 心の中のことだからこそ、オレに聞こえる前提だ。
 わざわざ心の声でオレに話しかける人間はゼロじゃない。
 
 ただ、心の声は口で発する言葉よりも率直になりがちだ。
 弘文が言葉の重要性を教えてくれたことで、比較できるようになった。
 包み隠すことがない本音だけで構成されている心の声は、時に優しさがない。
 
 口ではオレを天使だとか褒め称えながらも、綺麗な顔して何を考えているのか読みとれないと彼は感じている。
 天使という言葉に得体のしれなさを内包させているのかもしれない。
 言葉だけを見るならば褒めているような表現も心のありかたと合わせると意味が反転する。
 
 弘文に面倒をかけられているといった発言を多々するが、心ではそれを喜んでいるし求めている。
 嫌がるような言葉を口から吐き出しながら、自分が居るべき場所があると安心している。
 大人のようにわかりやすい嘘吐きだ。
 けれど、今のオレならわかる。
 弘文はそれを嘘とは言わないだろう。
 
 人の心や言葉の中にある誤魔化しを嘘とは呼ばないし、責めたりしない。人は清く正しいばかりじゃない。合理的でありすぎたり、間違わない人格者を求めるなら最終的に人工知能とでも会話すればいい。
 
 弘文は人間の持つ不確定要素を愛している、と、弘文の隣にいる相手は考察している。
 オレもその意見には同意するが、オレが自分で気づいて言い当てたかった。
 先に答えを横から教えられたようで不快感にイライラする。
 
「それはお前の自己責任だろ」
 
 オレの心を読んだようなタイミングで弘文が言い放つ。おでこを指で軽く触れられる。
 責めるわけでも、庇うわけでもない。
 弘文は事実を言っているだけだ。
 オレの状況をどこまで把握していたのかはともかく、弘文の言う通りだ。オレの自業自得だ。弘文の隣にいる人間が何を考えているのかオレは探ってしまった。勝手に心を読むような能力が全開なはずがない。ちゃんと使わないでいる訓練を受けている。
 
「弘文の心が分からないから、悪い」
「先輩に対して名前の呼び捨ては、ねえだろって思ってる」
「嘘だっ」
 
 弘文はオレに名前を呼ばれるのが嫌いなわけじゃない。
 周囲のオレに対する視線を気にしている。
 つまり、オレでも弘文でもない他人のする評価や勝手な噂に配慮しようとしている。
 しかもそれは弘文自身のためじゃない。
 オレが日常生活をする上で嫌な気持ちにならないようにという考えからだ。
 弘文をフォローするためなのか、先程からずっと「ヒロは康介くんのためを思ってるんだよ」と思念を送ってくる相手から心のシャッターをおろす。たぶん、相手はオレほどのテレパシー能力者ではないにしても他人に自分の気持ちを伝えることができる超能力者だ。洗脳系の気配がする。
 
 弘文が優しいなんて言うことは分かっているんだと弘文の隣にいる相手を睨みつけるしかない。
 
 幼なじみがそんなに偉いのかと苛立つ。
 弘文が「人の心の声を聴きすぎて記憶力が低下してるのか」と失礼な言葉を発した。
 心の声ならともかく弘文はオレにケンカを売りすぎだ。
 それとも、心で思ったことが口から漏れているのかもしれない。わざわざオレに心を見せてくれている。
 
「弘文ってオレのこと好きだね。まあ、当然か」
「頭がおかしいのもいい加減にしとけよ」
「わかる。オレが目の前にいたら、オレを好きになるしかないもんな」
「自信満々なところ悪いが、あるわけねえだろ。アホっ」
 
 弘文がオレの頭をつかんで髪をぐちゃぐちゃにした。
 心を読まなくても弘文がこういったことを他人にしないことをオレは知っている。
 
 
※後日、いろいろあって、久道に「久道さん」と呼びかけることになる康介。
弘文は「俺を呼び捨てにして、久道をさん付けだと!?」と複雑な気持ちになる。
2018/12/15
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