愛の言葉を知らないふたり IF【竜のいる世界】

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IFの世界観なので「愛の言葉を知らないふたり」の本編とは違う設定が付加されたり、違った関係が構築されている可能性があります。


【竜のいる世界】は完全にファンタジーに偏っています。

王様×竜の話です。
私の頭の中で本編と類似した流れのファンタジー話として出来上がっていますが、正式に掲載するかどうかなどは未定です。

(腰を据えて書かなければならないので、ちゃんと書くかは何とも言えない)


おまけなので完全版ではなく、世界観のお試しとして、どうぞです。
ネタメモSSな立ち位置です。



IF:竜のいる世界【康介:出会い】


 竜は滅びたというのが百年前までの常識だった。
 現在、竜は人が思っているよりも数多く存在する、それが常識だ。
 
 
 
 人が太古の遺跡を参考にして作り上げた土人形ゴーレムに踏みつけられて康介は困っていた。
 どうして自分が土の下敷きにならないといけないのかという怒りと待っていれば誰かが何かをしてくれるという甘い考えがあった。
 
 生まれてまだ数年とはいえ竜の鱗は硬い。土がのしかかって来ても死にはしない。幸い山なので頭が動く範囲に草がある。空腹を感じた覚えはないが、口に入れれば気が紛れるだろう。
 
「やめろ、食うな」
 
 目の間に咲く花を口にしようとした瞬間に声がかかる。
 康介にとって初めて近くで見た人間は、弘文と名乗った。
 
 弘文は山で花の栽培をしているらしい。
 ゴーレムは花泥棒を捕まえるための番人だという。
 踏みつけられただけで翼に傷をつけられた訳でもないので康介は弘文を許すことにした。
 
「勝手に山に侵入するなよって言っても、竜には無理だよな」
【そんなことない! 竜は立ち入り禁止って看板でも出しておけばオレだって来ない】
「キュウキュウ言ってて、なんか、かわいいな。反論の内容は分かんねえけど、お前が一般的なドラゴンみたいに馬鹿じゃないのは分かるよ」
【ドラゴンなんて、もはや家畜だ。本能しかない堕落した生き物なのに、その本能を人間に支配されてるなんて竜の末端として恥ずかしい。竜は星の記憶を紡ぐ世界の欠片なんだから一緒にしないでもらいたい】
「人間だったら小生意気なガキっぽい気配がするな。このキュウキュウって鳴き声、なんだろうな。子犬か?」
 
 意思の疎通は出来ているのに言葉が通じていない。
 
「人間は古代言語が出来ないんだから、もう……仕方ない。オレが合わせてあげる」
「お? 意外とかわいい少年声か」
「意外って何? 生まれてまだ十数年だよ」
「同い年ぐらいなのか、意外と」
「だから何が意外」

 康介の尻尾が苛立ったように揺れ動くので弘文は笑った。

「竜はあたらしく生まれないって聞いた。全個体が幽世かくりよに移動したって聞いてたんだが」
「大昔の常識だよ。今は現世うつしよの方が竜の数が多いんじゃない」
「たしかに現在は竜の目撃情報も増えてるし、国として竜を保有するところもあるって聞く」
「竜が幽世に移動したのは自分の番つがいが死んだからだ。人間の寿命は短すぎるから、まだまだ一緒に居たいっていう竜たちが死後の世界にくっついて行っただけ」

 康介の話は弘文にとって初めて聞くものだった。
 竜の生態は妄想や空想に彩られている。
 創作上の竜と目の前の幼い竜の語る事実はかけ離れている。

「竜は人間を番に選ぶのか」
「よくあることだよ。弘文も興味がある? オレの番にしてあげようか」
「ご親切にどうもありがとう。お引き取りください」
「うん? うれしいんだ?」
「ヤベーな。さすがは竜だよ。嫌味が一切通じねえ。……十人兄弟の真ん中か末っ子あたりを狙えば親も本人も良い返事くれると思うぞ」
「弘文は十人兄弟なんだ?」
「人の話を聞く気がねえな。俺は俺でやらなきゃいけないことがあんだよ。竜としては番探しは大変だろうが、もうこの山には来るなよ」
 
 手を振る弘文。
 康介は動くことなく弘文を見上げる。
 つぶらな瞳はまだ話したりないと語っている。
 それでも弘文は「帰れ。別のところを探しに行け」と追い払うように手を動かす。
 康介の竜の鱗は空を映しこんでいるような一定しない色合いだ。見つめていると思わず触れたくなるような姿をしている。
 
「なんで?」
 
 康介が頭を弘文に近づける。
 触れてしまえば何かが変わったり終わる気がして、弘文は避けた。
 
「竜に好かれたらうれしいもんだろ! 国益にプラスだぞ」
「人間たちのこと分かってんのか」
「聞こうと思えば世界中の音が拾えるし、世界中に音を届けられる」
「大変だな」
「……うん、まあ。人間ってうるさいからね。うるさい音を出すし、毎日殺し合いをして、うるさい」
「返す言葉もない」
 
 弘文が知っている竜が幽世に移動した理由は、人間同士の争いだ。
 人間同士の争いでも人が竜を兵器として使い、最終的に竜同士の争いになる。
 竜は同族に優しい。竜同士での争いを好まない。
 竜は知能が高く長生きなのでプライドが高く人間を弱く愚かだと見下す。
 それなのに竜が人に使われていたことが弘文には疑問だったが、康介の言葉通りに番のためだとするなら最低だ。
 番を道具として使う人間の精神はおぞましい。
 
「とりあえず、ここにいるのはやめておけ。俺がいる間は平和かもしれないが、いつまで持つかもわからない」
「なにが?」
「もっと安全な場所で相手を探せ。お前はこんな綺麗なんだから、すぐに相手が見つかるだろ」
「うん、見つかってる」
「俺のゴーレムのせいでどこか痛いって言うなら洞窟に隠れててもいいけど、それ以上は何もしてやれないからな」
「なにか、良い匂いする」
「人の話を聞く気がねえな。……柑橘類って食べられるのか?」
 
 弘文は鞄の中から果物を取り出して康介に見せる。
 
「オレに食べさせるために持ってきたの、それ」
「盗みに来たのが人間でも動物でも飢えてたら攻撃的になるからな」
「竜はそんなことしません」
「カッとなって雷を落として国を滅ぼしたって伝説は嘘か」
「本当じゃないかな。だって、カッとなったらそうなるもんだよ」
「幽世で隔離されててくれよ」
「人間は自分の都合や尺度で物事を考えすぎるよね」
「……それは、本当にそうだな」
 
 弘文の手から果物を食べさせてもらいながら康介はひらめいた。
 
「オレが世界を滅ぼす一歩手前まで追いつめようか」
「竜って血の気が多いな」
「その方が話が早いじゃん。滅ぼしきる前に弘文が立て直してあげれば?」
「人の気持ちはそんなに簡単に変わるもんじゃない」
「ああ、平和になったら一気に誰かのせいにしたくなっちゃうのか」
「俺のせいで収まるならそれでもいいが、そうはならないだろうからな」

 康介は首をかしげつつ羽根を動かす。
 弘文の隣を離れる気はないけれど、このままというわけにはいかないのも分かった。
 人間の姿にならなければいけない。弘文が竜である自分を受け入れないと康介はこの短い会話で理解していた。
 康介の人格を拒絶するのではなく、竜であるという理由で追い払われようとしている。
 人間は異種族に対して寛容じゃない。
 
「弘文、じゃあ、またねぇ〜」
「いや、もうここには来るなよ。危ないって言ってるだろ!」
 
 康介は垂直にジャンプするように飛び上がって雲に突っ込んでいった。
 空の上から山の中にいる弘文を康介は観察する。
 雲の中から見られているとも知らない弘文は溜め息を吐いて花の手入れをしたり、ゴーレムの様子を見て下山した。
 
 康介は弘文がどういう人間で、どんな立場なのか探ることはせず、翌日も山の中に入り込みゴーレムに捕まった。
 もちろん、弘文がやってきて「俺は暇じゃねえんだよ」と康介に説教をして昨日とは違う果物をくれる。
 餌づけるつもりはないと言いながら、康介が美味しいと言ったら同じものを連続して持ってきてくれる。

 やっぱり弘文は自分のことが好きだと上機嫌な康介はうっかり人間の集団に捕えられる。
 竜の価値を理解していない山賊たちは康介を殺そうとした。
 それは弘文によって阻止されるが、その後、何度も康介目当てで山に侵入する輩が出現することになる。
 弘文から疫病神あつかいされて怒った康介は山に行くのをやめた。
 
 と、見せかけて人の姿で国の要職に就きました。
 
 
 再会は玉座で。
 


※きちんとした連載の一本のエピソードではありません。
書きたい部分をつまんで書いています。
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