愛の言葉を知らないふたり2019年1月サンプル

・弘文×康介中心8

もだもだ康介えろえろに至るか?【8月2日はパンツの日】

 弘子が深弘の頭をお花まみれにして嫌がられているのを横目に見ながら、オレは点けっぱなしになっていたテレビを見る。弘子が見ていないなら消そうとリモコンに手を伸ばしたところで女子アナから「八月二日はパンツの日だってご存知でしたか?」と声がした。番組の司会者やコメンテーターに奥さんや彼女からプレゼントはあったか、たずねていた。
 
 思わずオレの動きは止まる。
 
 八月二日にオレはパンツを新しくしていた。定期的に弘文は下着を一新する。擦り切れて穴が開くまで、ゴムが伸びきるまで延々とはき続けるなんてしない。

 くたびれている下着よりもピッタリとフィットする新品が好きらしい。

 久道さんは勝負下着以外は気にしないと言っていた。いつも油断をしないモテ男かと思ったら意外と雑だ。

 微妙な下着は自分がその気がない時に男女問わず相手を萎えさせるのにある程度効果的だという。最低限の行動で最大限に効果をもたらすことを考えるあたり、久道さんらしいのかもしれない。自分がその気がある相手だったら主導権を取って、ズボンと一緒に下着は脱いでしまうから、相手にはバレないとも言っていた。上級者の言い分だ。
 
 ともかく、弘文と久道さんのわりと意外な違いをオレは覚えていたし、弘文が定期的に新品の下着にすることに文句はない。八月二日にパンツが新しくなったとしても日常だと何も考えていなかった。それが、テレビで「本命の彼氏にパンツを贈る日」として紹介されていた。
 
 女子アナがパンツを連呼することを司会者が指摘してスタジオの人間が笑っているというセクハラ場面は、最近の風潮からするとクレームがありそうだ。

 そんなことはオレにとってはどうでもいい。問題は下着を贈るイコール愛の証明だと話している。それが一番の注目ポイント。海外だと女性が男性にクリスマスやバレンタインデーに下着をプレゼントするらしい。
 新しい下着を身に着けると運気が上がる。だから、八月二日は過ぎてしまったけれど来年と言わず今週にでも下着を新調してみてはと、女子アナがにこやかに口にした。
 
 司会者がそういうのは早く教えてよとツッコミを入れる中、オレは身悶える。
 
 新しいパンツをオレは弘文にもらっているのだ。プレゼントだと包装紙にくるまれたものを手渡しされたわけじゃない。それでも、弘文がオレの下着を選んだのは間違いない。子供たちとお揃いにするといった意図でもない限り、オレが元々はいていたようなデザインや素材のものを用意してくれている。

 今、オレがはいている下着も弘文が選んで買ったものだ。
 自覚すると頬が少しばかり熱くなる。
 今に始まったことじゃない。
 以前からずっとオレは弘文の選んだものを着けていた。
 急に弘文に下半身を触れられている気持ちになった。
 思考が跳躍しすぎている。





イライラ弘文ムラムラに至るか?【8月2日はパンツの日】

 私用のケータイに康介から買い物をしたというメッセージが来た。
 何を買ったのかは秘密だとか、添えてある一言にひらがなが多いので弘子が送っているんだろう。
 弘子の買い物ならテレビでやっていたお取り寄せスイーツだろうか。
 問題はないと思いながら俺はタブレット端末を起動する。
 家の中にある康介や弘子が買い物に使用しただろうタブレットにインストールしているブラウザと同期しているので、検索履歴やどこのサイトのページを見たのか簡単に分かる。
 
 普通なら別の端末に変えても自分が見ていたページにすぐに行ける便利なシステムだが、裏を返せばネットでどう動いたのかが筒抜けになる機能だ。もちろん、康介はこのことを知らないだろうし、知ったところで気にしないだろう。康介は自分のすることを恥ずかしいとか、隠さなければいけないと考えていない。
 
 康介はいつでも、堂々としている。
 堂々と浮気をしようとする。
 
 康介が見ていたページに掲載されている写真はすべて男の股間のアップ。
 欲求不満だとしたら反省すべきは俺かもしれない。同時にふざけんなと詰め寄りたい気持ちもある。
 腹の底から湧き上がる怒りのまま、つい何を買ったのか通販サイトの購入履歴を確認する。
 目に映るものの意味が分からず仕事に戻る。
 弘子に買ったものは秘密だと言われたので見なかったことにするのが良いだろう。





下鴨家【麻婆豆腐】
※鈴之介と弓鷹、幼児期。年子なので双子っぽさがある。
大体、この頃は鈴之介→弓鷹の順番で言葉を発する。

「あひぃ!」

「コウちゃんが奇声を発して黙り込んじゃった」
「ヒロくん何したのっ!」

「二人には分からないかもしれないが俺は何もしてない。これは自爆って言うんだ」

「コウちゃんは自分で自分を追いつめたの」
「コウちゃんの何が悪かったの」

「人の食べ物を勝手にとること、だな。康介、俺を叩いても解決しないから牛乳を飲め」

「コウちゃん、辛いのダメだった?」
「コウちゃんはヒロくんの食べてる麻婆豆腐を横取りしたけど、味が違った?」

「俺は自分の分をみんなよりも辛くしてた。ラー油多めぐらいだけどな」

「なんで牛乳?」
「辛いと牛乳?」

「牛乳で気がまぎれるだろ」
「弘文、それ、気のせい」
「そうか?」
「ラー油っていうか、山椒がきつい。舌がピリピリする」
「四川風だな」

「しせん?」
「しちせん?」

「中華料理は地方によって特色があって四川、四つ川って書くんだが、その場所は香辛料を効かせた料理が多い。日本でもその地域特有の味付けを他所ですると、なんとか風ってつけるだろ」
「広島風お好み焼き」
「一番はじめにそれか」
「弘文は普通のよりもそっちが好き」
「キャベツが美味しいよな」
「お好み焼きってソースの味じゃないの」

「おこのみやきって?」
「小麦粉の食べ物じゃない?」

「鈴之介と弓鷹は食べたことなかったか?」
「下鴨の家では、まず出さない」
「木鳴でもそうだろうな。……ホットプレート買ってきて自分たちで作るか」
「ピザみたいに来ないんだ」
「宅配お好み焼きか? 聞いたことないな。あるかもしれないが、お好み焼きは自分たちで好き勝手作る食べもんだから、ピザ感覚で買う気になれねえな」





愛の言葉を知らないふたり 2019年1月【6つ記事分】
・下鴨家まとめ8 (11867文字)
・下鴨家まとめ9 (11353文字)
・弘文×康介中心7(10715文字)
・弘文×康介中心8(12837文字)
・下鴨家まとめ10(10848文字)
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