NOVEL(Short4) | ナノ




Sleeping beauty


2

「貴一だけは裏切らないって、思っていたのに」
「裏切っていないよ。翔は今でも最高の友達だよ」

瞬きをした瞬間、また景色が変わった。
僕は彼女が働く喫茶店に居た。今回はカウンターではなく、テーブル席に座っていた。向かいには、少し大人びた翔の姿が映る。
ああ、思い出した。これは、僕が大学二年生の頃の時だ。何が最高の友達だ、高校を卒業してから音沙汰もなかったくせによく言うと、翔は僕を睨みつけていた。

「僕がどんな思いで数年間過ごしていたのか分かる?よく、此処に顔を出せたなって思わない?」
「うん、思う。でも、僕はこれからも関係を続けたいから、呼び出したんだ。来てくれてありがとうって心から思うよ」
「じゃあ、なんで関係を続けたいって思いながら、離れたんだ?そもそもそんなことさえしなければ、僕はこんなにも怒っていない。進学先も貴一に合わせていたのに」
「僕達は距離が近すぎた。少し距離を置いたほうがいいと思ったんだ。その、勝手に志望校を変えてごめん。でも、翔が通っている大学、翔がやりたかった分野だろ?本来、大学って言うのは自分が学びたい分野を学ぶ為に行くものだから、翔にとっても良いところだと思ったんだ」
「何それ。わざと、あの大学を選んだってこと?僕のために?貴一は僕のことを理解してくれていると思っていたけど、違ったみたいだね。僕は、君を許さないから」
「翔、あ、ま、待って・・・っ」

お金を乱暴にテーブルに置くと、そのまま店を出ていってしまった。確かに何も言わずに離れた僕が悪い。呼び出しに応じてくれただけでも良い方だ。きっと、また同じ様に呼び出したところで、今度は応じてくれるのかも分からない。神経を逆撫でる事しか出来なかった僕にはもう、会ってくれないかもしれない。

「そんなに落ち込まないで。また時間を置いて、会ってみるのも良いかもしれないよ」
「会ってみた結果がこの通りだよ。僕はどうしようもない人間だ」

翔の立場になってみれば、自分は本当に都合の良い奴に見えるんだろう。別離と言う選択が、翔にとってはどうしても許せない事だったんだ。彼女は諦めるには早いよと言ってくれるけれど、僕はもうこれ以上、会うことはやめようと思っていたんだ。

「ごめんね、今日はそろそろ帰ろうと思うよ」
「ううん、ゆっくり休んで。また来てね。・・・土曜日は宜しくね」
「うん、土曜日、楽しもうね」

彼女の頬がほんのり赤く染まった。
僕もつられて、頬が緩み、手を振って別れた。
喫茶店の扉を閉め、歩こうとしたその時、

「本当に君は僕を苛つかせる天才だ」

突然、降ってきた様な声に僕は驚いて後ろを向いた。
目の前は真っ暗闇に染まり、僕の意識もそのまま暗闇に落ちるように沈んだ。

暗闇に浮かんだ赤色がジッと此方を見ていた。

***

そして、僕は体が突き上げられた感覚に驚いて目を覚ました。いや、それよりも、首に何かが刺さった激痛の方で目が覚めたのかもしれない。あまりの痛みに声が出なかった。大きく開けられた口を閉じることも出来ず、震えるように動かすのに精一杯だ。

ふはふはとだらしなく開いた口で呼吸を整えようとした。落ち着け、落ち着けと周囲を見渡し、僕は目の前にいた翔に抵抗し始めた。

「あ、がっ!い、痛いっ、な、なにやってえっ、あっ、やめっ、やめろっ!」
「貴一、おはよう。開口一番は、愛してるのほうが嬉しいなあ、俺っ!」

ガツガツと勃起した翔の陰茎を僕の孔に遠慮なく突っ込み、中を行き来している。受け入れている其処は擦れて麻痺しているのか感覚があまりない。ただ、首から肩にかけて激痛が走っている。ぼんやりした視界で見えたのは、見下ろす翔の口元だった。薄っすらと見える牙に僕は恐怖を感じた。

この体験が、過去を追っているのには薄々、気付いていた。それが今現在の僕の時間に近付いているのも。


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