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記憶の刷込
(美形×平凡/ヤンデレ)

23

息が上手く吸えない。蹲りながらも、雪崩のように流れてくる事故の記憶に耐えようとしていた。
恭君が心配して、背中を擦ってくれる。俺は此処で意識を手放してはいけない。恭君の声掛けに上手く応えられているか分からないけれど、此処で耐えなければ、一番大事なことを思い出せなくなるような気がした。

そう、あの日。
俺は先輩に告白しようと、呼び出していた。大通りのスクランブル交差点を越えたところにある本屋さんで待ち合わせをしてーーーー。

いや、違う。
そうじゃないんだ。

俺が先輩に告白しようとしたんじゃない。
春日が、先輩に告白しようとしたんだ。春日って誰だ?あ、友達だ。そう、俺達は仲が良かった。親友だったんだ。
俺は、春日が先輩に告白する話を事故の前日に聞いていた。大好きな先輩だったけれど、友達が上手くいくのを見守りたかった。先輩の事も、春日の事も、友愛と恋愛で俺が持っていた思いとは違えども、大好きな気持ちは、変わりなかったんだ。俺は、春日を選んだんだ。
誰にも言えなかった自分の気持ちを、春日が俺に先輩への気持ちを打ち明けると告白したあの日に、押し殺して笑って応援しようとした。

だけど俺は、諦めがつかなかったのか諦めをつけようとしたのか。その日、春日の後をつけていた。
スクランブル交差点を越えたところで暴走したトラックが春日の方へ向かっているのに気付いた。春日の名前を叫ぶと同時に、体が動いていた。

春日がトラックに気付いた時には春日の体が宙に浮いていた。何とか間に合った俺は、春日の体を押す事だけで精一杯で、春日の代わりにトラックに轢かれた。
右折してきたトラックに運悪く轢かれた訳じゃない。
俺は、友達を助けて轢かれたんだ。

ストンと、過去の事実を受け止めると同時にあれだけ息苦しかったのも嘘のように落ち着いてきた。落ち着き始めた俺に対して、恭君は優しい手付きで背中を擦り続けてくれていた。

「恭君、ごめんね。俺、やっと全部思い出せた。思い、出せたんだ」

落ち着いたと思ったら、涙が止めどなく溢れ出てきた。
そんな俺に、恭君は黙って抱き締めてくれた。



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