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「あれ?」

 食べ終えた食器を片付けながら、ふと夏休みを思い返す。気がつけば、予定していたはずの旅行はなかった。そもそもどこかに行きたいと言う話すらしていない気がする。軽くどこかには出かけたけれどすべて日帰りだった。そして休みの間もちょこちょこ月島さんが会社に呼び出されてしまい、私は私で実家に帰ってお墓まいりをしたり親戚に会ったりして、結局二人でゆっくり過ごす事もできなかった。お互いがお互いの用事を済ませて一つの家に帰る。普段よりははやく帰宅できたというだけであまり夏休みを満喫できなかった。

「どうした」
「今日で夏休み終わり、ですね」
「そうだな」

 社会人の夏休みなんてあっという間だ。大学生の夏休みくらい一気に2ヶ月とかお休みになればいいのに。
月島さんに「夏休みにどこか旅行でもと提案しようと思ってたんですけど」と正直に話すと「ああ、俺も考えてたんだ。休暇の日程の連絡もらった時はそうするつもりでいたんだけどな」と言われお互いに忘れていたというか流れるまま日常生活を送ってしまっていたのであった。

「結局休みの間は家事やってのんびりして、ちょっと運動して、終わりましたね」
「……ああ、まあ、そう……だな」

 ちょっと運動、が私の足腰にとっては『ちょっと』のことではないのだが。月島さんも言いたいことは察してくれたらしい。「今日で夏休み最後なので」とソファに座る月島さんに背後から忍び寄ると「あんまり遅くならないように」と振り向かれる。それは、月島さん次第じゃないですかね。すこしかがんで顔を近づけると頬に手を添えてくれて優しく撫でてくれる。瞼を伏せると唇が重なった。

「んっ、ふ……月島さん、首痛くなっちゃう」
「そうだな。どうする、寝室行くか」
「ううん、んっ?!」

 悩んで唸っているとまたしても唇を奪われる。ううん、寝室まで移動してる間が勿体無い。それにとぼとぼ歩いていく間にこのワクワク感というかドキドキ感が薄れてしまう気がするのだ。手を繋いでベッドまで行ってくれる?それともお姫様抱っこでもしてくれる?それを口にして「そんなガラじゃないだろ」と茶化されるのも恥ずかしい。普段私が茶化す側だからお前がいうなという感じなのだろうが、私はこう見えて結構ロマンチストなのだ。そういうところ少しは夢を見させて欲しい。(月島さんに言うのもお門違いかもしれないけれど)

「ベッドだとそのまま寝そうだからソファでやるか」
「っん。ソファで?珍しいですね」
「明日の準備とか、このあとやることがまだあるからな」
「じゃあ、バスタオルとかゴムとか持ってこないと」
「俺が持ってくるからお前が準備してろ」

 豪快にTシャツを脱ぎ捨てて月島さんが寝室に向かっていった。準備ってなんだ、脱ぎ捨てられた彼のTシャツの匂いでも嗅いで一人でオナニーでもしていろと言うのだろうか。ぎょっとされるかもしれないけど、煽ってやる。あんまり遅くならないようにとか、まだやることあるとか、自分で大人ぶって言ったこと後悔させてあげるんだから。