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 服は某大量生産の安い衣料品店で揃えた。もうかれこれ2週間ほどになる。まだ1ヶ月たってないんだなあと思いながらぼんやりと電車に乗っていた。今日はもう終電間際だった。疲れたなあ。でもこの忙しい期間も今日でひと段落ついた。明日明後日はお休みをもらったので久しぶりにゆっくり休めるなあとぼうっとしながら電車に揺られてうとうとしてしまう。気がつけば杉元くんの家に行くために乗り換える駅を通り過ぎていた。
 しまったと思った時にはもう遅くここから引き返してもそのあとの乗り換える電車の最終を逃してしまった。杉元くんに『終電逃したからカラオケか漫喫いく』とメッセージを送った。『了解。お疲れ。夜だから気をつけてね』優しいなあとつくづく思いながらお礼の文を打っていると、メッセージが届いた。彼から。

[明日弁当不要、明日帰る]

 きっと飲んでるんだろうなと思った。いつもみたいなメッセージだった。もう家にいないっていうのに。というか相当飲んでるな。明日お弁当いらないという情報と明日帰るという情報。全然結びつかない。出張でも行っているんだろうか。うん、多分そうだ。出張に行っていて明日帰るということだろう。それでなぜか私にメッセージを送る気になって明日って入力したら予測変換か何かで弁当不要とかでてきたんじゃないかな。想像できて笑えた。ばーかばーか。チビ筋肉ダルマ。
 だがむしろこれは好都合だ。このまま電車に乗って家に帰ればいい。カラオケ行ったって歌う気もおきないし漫喫いくなら漫画読みたいし、ゆっくり休めない。久しぶりの帰宅、ついでに荷物も取りに行こう。

 とぼとぼといつもの帰り道を歩くと2週間ほどしか経っていないのにとてつもなく懐かしく思えた。結構いいところじゃん、なんて思えてくる。まあ実際に生活しやすかったのだからあながち間違いではないのだ。
 仕事用の鞄しか持って行かなかったけれど幸か不幸かその鞄に家の鍵をいれたままにしていた。杉元くんの家に置いておくわけにも行かずにずっと入れたままでいたけれどここで役に立つとは。鍵を差し入れてドアノブを回す。ドアを開けると部屋は月島さんの匂いに満ちていた。ちょっとだけ散らかっていた。チラシの束、シンクには水だけ張った食器。ソファの上には洗濯前なのか後なのかわからない衣服。きっと出張前に色々出したんだろう。男の一人暮らしにしたら全然綺麗だけれどすこし雑然としていた。
 鞄と上着をソファの上に投げて、溜まった衣服を自分の今着ている服と一緒にして洗濯機に突っ込んだ。シャワーを浴びて使ったタオルも一緒に入れて洗濯機を回し始める。チラシの束やらコンビニのゴミを一気にまとめてゴミ袋に入れて、たまった食器を洗った。終電で帰ってきて疲れているはずなのにてきぱき家事が進む。気がつくと洗濯が終わっていたので乾燥機に入れられるものは入れて、回す。それ以外は浴室乾燥のため、風呂場のポールにかけていった。寝室に行ってベッドに体を沈めて月島さんの匂いがする布団を手繰り寄せてくるまった。
 杉元くんの家で眠れなかったわけじゃないけれど、この匂いを嗅いだら途端に眠気が押し寄せてきた。安心するんだろうなあと思いながら広いベッドで一人眠りについた。