末っ子あにき

迂闊だった。


まさか、まさかこのオレが相手の念能力をくらうなんて。

ごく普通の仕事の筈だった。
ターゲットが念能力者だということで十分な警戒の上、完全な闇討ちをしたつもりだった。
予想外だったのはターゲットの能力が命の危機に対して自動で発動するものだったこと。慌てて殺し距離をとったお陰で最悪の事態は免れたが、数年ぶりのミスが悔やまれる。

念はだんだん弱まっているようだから3日程度で戻るだろうと親父や爺ちゃんは言っていたが、逆に3日も不便を強いられるのかと気が滅入った。
しかもその能力ときたら…


「カルよりちっちゃい…」


筋肉のないぷにぷにの身体。

舌足らずな高い声。

低い視線と短い手足。

どう見ても幼児です本当にありがとうございました。
オレの幼少期を知る周りの連中曰く、およそ3、4才くらいの頃らしい。念能力は相手の時間を巻き戻す系のやつだったんだな、うん。どんな能力だよ。

そんなこんなで兄弟で最年長のはずが最年少になってしまったオレ、なまえ=ゾルディックは弟達のいいオモチャになっていた。


「兄様!一緒に絵を描きましょう!」

「兄貴ケーキ食うか?クッキーは?」

「すっげぇマジで小さくなってる!すっげぇ!抱っこさせて!」

「なまえ柔らかいね。ほんと可愛い」


上からカルト、ミルキ、キルア、イルミである。
アルカは今のオレじゃ何があるかわからないから会うのダメだって言われた。
仲間はずれにしてごめんな…元に戻ったら真っ先に会いに行くからな…。

集まる弟達に抱き上げられ、撫でられ、物を与えられ、誉めちぎられ、あれこれ世話を焼かれ、オレの兄としてのプライドは木っ端微塵に砕かれている。
あまりにもハイテンションな弟達は珍しいオモチャ(オレ)を取り合って殺し合いという名の兄弟喧嘩が勃発しそうになったため、慌てて全員平等を言い渡したくらいだ。オレの非常事態の噂を聞き付けてキルアまで戻ってきたのには驚いたが、こうして皆集まって仲良くする機会はなかなかないので多少の精神的苦痛は我慢することにした。

でもな…食べ物あーんされたり着替え手伝われたりは正直キツいぞ。
特にイルミとカルト。
末っ子のカルは仕方ないとして、イルミ。お兄ちゃんを虐めるのはやめなさい。介護されてる気分になると何度言えばわかるんだ。


「それよりミルキ、ちゃんと記録はとれてる?」

「写真とビデオはゴトー達に頼んでる。保存データのセキュリティは最重要機密レベルで完備するつもりだし、保存用、観賞用、普及用にあとでアルバム化してわたせばいいんだろ?」

「なにそれ!ミルキまさか…」

「なまえのアルバム!?ほしい!ブタくんオレのも!」

「家族には無償で用意してやるよ」

「まって!?オレのアルバムつくんの!?しかも“かぞくには”って、ほかにもくばるつもり!?」

「使用人には給料4年分の値段で売るつもりだ。今のところ予約は殺到してる」

「なぜ!?」


なんてこった…!!
アルバムとか作っておきながら言うのも何だけど、自分が写真撮られるの恥ずかしいな!特に今の姿は全員の記憶から消し去りたい黒歴史レベルなのに。見ろよこの戦闘力ゼロな情けない身体!撮るなら元の姿にして…。

いや、それもだけどまず使用人に売るなよ!
使用人も買うなよ!
もっと給料は大事に使うべきじゃないの!? うち月収は高いけど安全性は限りなく低いんだから!
どうしてうちには普通の感覚の奴がいないのか。そもそも誰も心配してくれないで喜ぶってどういうこと?
どんな不測の事態にも冷静でいられるのは暗殺者としては満点だけどさ、もうちょい慎重になった方がいいんじゃないかな。仕事に関しては少し神経質な方が危険を回避できるし、意地悪かもしれないがここは家族として先輩として注意した方がいいかもしれないな。


「あのさ、もしオレがのろわれてしんだら、とかかんがえないの?」

「「「「………………」」」」

「………………」

「「「「………………」」」」

「……う、うん。たとえばのはなしだよ?ごめんね?いじわるだったね?」


あっ、墓穴掘った。

忠告と心配とほんの少しの好奇心で聞いてしまったオレが馬鹿だった。
全員揃って無表情になっちゃったんだけど怖いどうしよう。似てない似てないとは思ってたがお前らやっぱり兄弟な。感情が抜け落ちたイルミフェイスが4つ並んでる。そっくり。怖い。

もしかしなくても地雷だったか。
取り繕うように謝ってみても皆どこを見てるのかわからない虚ろな目でマジで怖い。どうやったらそんな顔できるの?兄ちゃんだけできないの?確かに軽率な発言だったかもだけど本気でお前達を思って言ったんだからね?
って、あああカルとキルがカタカタ震えだしたどうしようどうしよう泣かせるつもりはなかったんだよ…!


「なまえ…にい、さまが死んでしまったら…?兄様はボクを置いていくの…?」

「や、やだよそんなの…なまえが死ぬとか、そん、そんな、許すわけないだろ…!」

「うーん…そっか、その可能性もあるのか。だとしたらオレの手の届かないところに行かれるのは困るな。やっぱ外に出さないのが…いや、仕事も一緒に連れて行けば…?」

「一番てっとり早い方法は体内に発信器付きのチップを埋め込む方法だな。それから死体の腐食を防ぐ方法を探して、兄貴の針で動かせば半永久的に生かすことができる…か」

「にいさま、兄様、ボク兄様とずっと一緒にいたいです。どこまでもずっと…」

「兄貴は死なせねーよ……絶対に、近付く奴等を全員殺してでも守ってみせるから…!」

「いっそ身体を冷凍保存して精神を何かに移せないかな?そういう念能力探せばありそうだね。操るのもいいけど兄貴の精神は綺麗なまま残したいからさ」

「わかった。すぐ調べる」

「ちがう、そうじゃない」


そういうことじゃない。
真面目に考えてくれてるとこ悪いが落ち着いてくれ。
かなり倫理的にぶっ飛んだ話にまで発展してるから待って。特に年長者二人。すごい物騒なワードが飛び交ってるがお前らはオレをどうするつもりだ?
痛くなってきた頭を抑えてカルとキルの頬を撫でる。掌が小さいし届きにくいしで大変だが顔面蒼白の可哀想な弟達のため。幼い二人にはまだ酷な質問だった。
オレはただ、あらゆる面で常に最悪の事態を想定して行動しろって言いたかっただけなんだ。そんな絶望させたかったんじゃない。


「はぁ…にいちゃんつかれたよ……」

「え?なまえ疲れたの?」

「肉体が若返ってる分体力も減ってるのかもしれないな」

「それは一大事です!すぐに兄様を休ませる用意を!」

「ベッドまでオレが運ぶ!」

「枕が今の身体のサイズに合わないかもね。特注品を作らせなきゃ」

「リラクゼーション効果のある香も焚こう」

「毒なしのハーブティーも!」

「兄貴の安眠を守るために敷地内の警備を増やそうぜ!」

「マッサージでもする?最近なまえのために覚えたんだ」

「ちがっ……もう、おまえたちが、たのしそうならいいや」


立ち直り早すぎてオレついていけませんわ。

元に戻るまでの数日間ずっとこの調子かと考えただけでげんなりした。
この子達を悲しませないよう、もしもの事態が起きないようにオレが気を付ければいいだけだ。

神輿のように運ばれながら、次からはもっと警戒を怠らないようにしようと心に決めた。


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