(捏造注意)
月に一度だけ、オレはとある部屋への入室が許される。
屋敷の中でありながら使用人しか立ち入ることのない、オレにとって大切な者の待つ場所。
少しばかり特殊な力を持ってしまったがために不便を強いられた可愛くも可哀想な弟の部屋。
「アルカ、元気にしてたか?」
「なまえお兄ちゃん!」
ドアを開ければ飛び込むように抱き付いてきた小さな身体。
ずっとここで待機していたのか、先月会った時にあげたテディベアが側に転がっていた。クロロからの依頼の報酬だったが気に入ってくれたらしい。
頬擦りをして甘えてくるアルカの脇に手を差し込み高く持ち上げれば、ゆるゆるに緩んだ笑顔が見えて口角が上がる。
うちの家族で一番表情豊かなのがアルカだ。こうして露骨に喜んでくれるからオレも甘やかし甲斐があるというもの。
「ナニカも元気か?」
「うん!なまえお兄ちゃんが来るって聞いてからずっと楽しみにしてたの!」
「なら良かった。前回はテディベアをアルカの分しか用意できなかったろう?今日はナニカのを買ってきたんだ」
「ほんと!?ありがとう!」
流石に同じものを手に入れるのは不可能だったため、色違いで形がなるべく近いぬいぐるみをあちこち飛び回って探したのだ。
綺麗にラッピングされたそれを差し出し、少し伸びた髪を指で鋤く。
この子の中には、もう一人の人格が存在する。
ナニカと呼ばれる願いを叶える力を持った異質な…親父は、闇だと言っていた。
その力の危険性から家族はアルカとナニカをこの部屋に隔離している。
ナニカの“おねだり”を4回断ると、断った者は死んでしまう。
そのルールから、オレが会いに行くのも以前はかなり反対されたものだ。……実際、オレがナニカの“おねだり”をされるまでは。
「なまえ」
「久し振りナニカ。アルカと仲良くしてるようで助かるよ」
「なまえ、ぎゅーってして」
「お安いご用さ」
ナニカは、ナニカも、本当はとても優しい子なんだ。
調査で大きな願いを叶えた直後、ナニカはオレにおねだりをした。
本来ならば叶えた願いが大きければ大きいほど次のおねだりは危険なものになる。だからイルミやミルキはオレを近付けさせないように色々手を回したようだったが、そんなことで家族を見捨てるなんてオレにはあり得ないことだったから。
あの日もこうして会いに来た。
アルカもナニカも、オレには等しく大切な家族だったから。
「なまえ、なでなでして」
「うん。いいよ」
オレの他にアルカの味方だったのはキルアくらいだった。むしろキルの方が歳も近いし仲が良かったかもしれない。
そのキルアも出ていってしまって、この子達には本当に寂しい思いをさせてしまった。だからこそオレだけでもたくさん遊んで幸せにしてやりたいのに、月に一度しか会うことができないのが余計に歯痒い。
こんなちょっとした触れ合いだけでも嬉しそうにしてくれるナニカは本来ならばとても謙虚な子なのに。
「なまえ、」
「ナニカ」
ナニカのおねだりが危険になるのは、人の欲の写し鏡だからだとオレは思っている。
人間の醜い欲望をそっくりそのまま反射する、本来ならば無害である筈の存在。
ナニカ自身はとても心優しくて滅多にわがままなんか言わない純粋で素直な子なのだ。
じゃなきゃあの時、オレにあんな願いをするわけがない。
「お前の本当にしてほしい事を言ってごらん。お前はもっと欲張りになっていいんだよ」
ナニカにとって最大級のわがままで、最大限のおねだりはほんの些細な事だったから。
「……なまえ、愛してるって言って」
ほら。
この子はこんなにも臆病で優しい。
「愛してるよナニカ。お前達どっちも、オレにとって愛して止まない家族だ」
「なまえ、すき」
「オレも大好きだ」
お前が同じ願いを望み続けるというのなら、オレもお前に同じ願いを祈り続けよう。
愛される事は決して高望みではないのだと。
どこから来ようと、何者であろうと、お前達を愛さない理由になどならないのだとわかるまで何度でも。
「どうかこの先…人の醜い欲に支配されることのないよう二人とも幸せになってくれ」
「あい」
愛しい愛しいこの弟達に、どうか神の祝福を。
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bkm