「オレ達と関わるつもりなら、またこういう事が起きるのを覚悟した方がいいよ」

「……体調崩してなければ大丈夫だった…と思う」

「だろうね」


俵担ぎは嫌だと散々騒いだおかげで横抱きに変えてもらい、レンガ造りの豪勢な建物の中を歩くこと数分。

俺が閉じ込められていたのはどうやら建物の地下牢獄みたいな所だったらしく、ゾルディック邸ほどではないにせよ立派な建物に驚きながら装飾品などを眺めていく。
オレ達が来た方向からは悲鳴やら銃声やらがずっと聞こえっぱなしで振り返りたくなかった。ヒソカあいつ何やってんだ…。


「というかイルミは何でいるんだ?仕事じゃなかったのか?」

「仕事。ミョウジナマエについて影でこそこそ嗅ぎ回ってた奴等の殲滅と情報の抹消をね」

「は!?」

「うまく餌に引っ掛かってくれたから早く済んで良かったよ」


えさ。

……餌!?
え、餌!?餌って!?
俺を嗅ぎ回ってた奴等?あ、さっきの誘拐犯のことか。
そりゃあ裏世界で超有名らしい旅団やゾルディック家と関わってたら注目されるのは仕方ないのかもしれないけど…餌!?

ま さ か


「お…俺を囮にした?」

「そっちの方が早いし。けど捕まるのは予想外だったな。また鍛えなおさないと」


鬼だ。

こいつ、俺が狙われるのを知っててわざと放置したのか。
敵をおびき寄せるために?
怪我人の俺を?

え、ってことはヒソカも共犯じゃないか。
ここに連れてきたのはアイツだし、そもそも自分から買い物をかって出るのも変だったんだよ。
嘘だろ。
全部仕組まれてたのか。

俺、今体調悪いのに。


「信じらんねぇ…」

「でもこれで暫くは危なくないんだし、良かったね」

「良くねーよ!!」

「うるさい」


鬼だ!

信じられない真相に愕然としてる俺を無視して、イルミは立ち寄った部屋のパソコンに何か機具のようなものを差し込む。
相変わらず何を考えてるのかわからない無表情だが、少なくとも俺を釣り餌がわりに使ったことは反省してなさそうだ。
イラッとしたので腹パンしてみる。

……拳が砕けるかと思った。
こいつ腹に鉄板か何か入ってるんじゃないだろうか。


「オレは怒られるより感謝してほしいぐらいなんだけどね。ナマエのためだから特別料金で働いてあげてるのに」

「……?どういうこと?」

「ナマエを拐った雇われマフィアがオレのターゲットだったけど、裏で手を引いていた黒幕の情報屋達は今頃死ぬより酷い目にあってるんじゃない?」

「………………、……うん?」

「あぁ、こっちはこっちでヒソカがやる気だから似たり寄ったりかな。オークションの件でも暴れたばっかなのに、よくやるよね蜘蛛も」

「うん?」


あれ?
今なんか聞き覚えのあるワードが。

謎の機具が接続されたパソコンの液晶が真っ白に染まるのを眺め、ようやくイルミの視線が俺に戻る。


「ゾルディックが後ろ楯になってるって見せつければナマエも少しは安全になるし、ナマエがゾルディックの人間だと周囲に知られればうちに引き込みやすくなる」

「お、おぉ…」

「でも向こうも同じこと考えてたんだね。先手をうって依頼してきたんだからほんとあの男、むかつく」


完全にブラックアウトしたパソコンから機械を取り出し、声に微かな不機嫌の色を滲ませてイルミは小さく悪態づいた。

あの男、とは。
脳裏に、イルミとは別の黒を身に纏った男のニヒルな笑みが過る。


この一件は全部仕組まれていた。

俺を拐ったこのマフィアだけじゃなく、黒幕の方にも同時に目を向けて指示を出していたのなら。
ヨークシンで俺が手配されてから1週間も経ってない。その短い期間で噂の出所を特定し、対策を立てて、行動に移す。

一体いつから仕組まれていたんだろう。
その仕事の早さに薄ら寒いものを感じ、思わず身震いした。

頭が切れるあの男だけじゃなく、ゾルディックも僅差で同じことを企ててたのが怖い。
裏社会に関しては素人な俺のためを思って、色々対策を練ってくれたんだろうけど。
とんでもない連中と関わってしまったと今更ながら寒気がした。


あとイルミの言葉が本当なら、黒幕とかいう情報屋の皆さんが旅団にどんな目にあってるのか想像するのも恐ろしい。
元々手加減を知らない奴等なのに、あの男……クロロがどんな指示を出したのかが問題だな。


「で、この後どうしようか。新居探してるんだって?」

「なんで知って……」

「盗聴器つけたからに決まってるでしょ」

「……………どこか平和で落ち着いた場所を教えてくれませんか」

「いいよ。金さえ払うならうちで用意してあげる」


もう何も言うまい。

リアルタイムでBGMのように聞こえ続ける悲鳴もなかったことにして、俺は俺のメンタルを守るため今日のことは全て忘れることにした。


かくして俺は暫しの平穏と新たな拠点を手に入れたのである。


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