第三次試験
72時間以内にトリックタワーから生きて下まで降りてくること。
そう指示された俺達は高い塔の頂上に立っていた。
「側面に窓もなし、この高さじゃ落ちたら即死コースだぜ」
「入り口もないね。どうすればいいんだろ?」
「ハンター試験だ、何かしらのトリックがあると考えた方がいいだろう」
「……つーかナマエ、いいかげん放せよ」
「嫌だ」
レオリオのとこでお泊まり会をし、ゴンとキルアに再会を果たしてから俺はがっちり両腕に二人を確保している。
何故か?癒し充電のためだよ!俺の心は昨日一日で荒みきってんだよ!!今は無垢な子供と触れ合いたい気分なんだよ!!
死んだ目で頼みに頼んだおかげか、二人も俺を心配してくれてたからか、どんなにギュッギュと抱き締めても抵抗されないのが嬉しい。
キルアは文句言ってたが聞こえないね!むしろ聞いてやらないね!!
とはいえそろそろ元気も戻ってきたことだし放すか。
ちょっと疲れた顔のキルアと平然としたゴンを解放し、俺も三次試験のために周りを見てみる。
すると、一人のロッククライマーが壁を軽々と下りだした。
崖とは違い、こんな平坦な壁を下るなんて凄いな。
感心半分に降りていく一人を眺めていると、何やら鳥?のような生き物が近付いてきたのに気付く。
……え、何あれ。
「……!?ひっ…!!!」
鳥?
いやでかいぞ。顔もキモイ。
怪鳥……ちょっと待て。あいつらロッククライマーの人に群がってないか?
彼も自分に集まる存在に気付いたのか、青ざめて引きつった悲鳴をあげる。あの体勢じゃ逃げられないだろう。
ギャアギャアと耳障りな鳴き声をあげながら、その鳥は大きく口を開け――――
「…………っ!!」
「ナマエ!!!?」
喰うつもりだ。
そう判断したのと同時に壁の男目掛けて飛び降りる。
怪鳥が男の肩を抉るより先に、その濁った眼球目掛けて爪先を深く捩じ込んだ。
また醜い鳴き声があがる。
鳥が怯むと同時に男の腕を引き寄せ壁から剥がし、足に刺さった鳥を勢いよく蹴って跳躍を試みる………が、屋上まで飛距離が足りない。
ゴンの焦った顔が見える。
ヒソカが何か此方へ手を伸ばしているが何だろう。トランプ投げた?だとしたらアイツ鬼畜ってレベルじゃねーぞ。
トランプじゃない。あ、そうだ“凝”で見ればいいんだ。
……なんかオーラが飛んできてる。
俺を助けようとしてるのか?なんか意外だ。
頭の片隅で呑気にそんなことを考える。
迫るオーラに手を伸ばす。
すさまじい速さで飛んでくるオーラの塊。
しかし、目を潰され怒った怪鳥の体当たりを受けて俺とロッククライマーは壁に叩き付けられてしまう。
伸ばされたオーラは俺に触れることなく通りすぎていった。
腕に抱えたロッククライマーは意識を失ったようだ。片眼の鳥が、笑う。
これは落ちるな。
俺の名を叫んだのは、果たして誰だったか。
「…………ねぇ、これでも心配したんだけど◆」
「いや、本当にご心配をおかけしまして申し訳ありません痛いです死にます俺今度こそ死にます」
「なんで無事にゴールにいるのさ?無傷で、ちゃっかりそこの男まで連れて◇」
「ひいっ…!!」
「いやその、それはその、」
「臆病なのにお人好しだね君は……勝手に死ぬ前に殺しとけばよかったって後悔してたんだ◇」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
死んだと思った?
生 き て ま す 。
ピンピンしてます。
なんとかロッククライマーの人も救出して念を発動、無事に地上まで落ち一番乗りでゴールしましたが何か?
気絶してたロッククライマーの彼も無事だったし、今は元気に部屋の隅でヒソカに怯えてます。俺も怯えてます。
能力使ってズルした気分だが人助けなら仕方ないよね!
それよりせっかく人助けで気分よかったのに、ヒソカが何かものすごく怒ってるんだが。
顔は笑顔で殺気がヤバい。せっかく目覚めたロッククライマーさんがまた気絶しそう。
俺もギリギリと片手で頭を鷲掴まれて粉砕五秒前って感じだ。纏してなきゃ今ごろ潰れたトマトみたくなってることだろう……グロはあかんってば。
「君はボクのお気に入りなんだから、勝手に死ぬのは許さない…◇」
「は、はい」
「反省した?」
「し…した」
「ん、ならよし◆」
みしみし鳴ってた頭を放され、代わりに額に触れる柔らかい感触。
……柔らかい感触?
チュッと音がして見上げればヒソカの顔のアップ。
…………は?
「……は?」
今………え、今…?
恐る恐る部屋の隅にいる彼へ視線を向けるも、見てませんよとばかりに顔を背けられてる。
…………うん…うん。
「…………カタカタ」
「おかえりなさいギタラクルさんちょっとお願いが助けぎゃああああ痛い痛い痛い痛い」
暫しの沈黙の後、タイミングよくゴールしてきたギタラクルさんに飛び付いたらヘッドロックくらった。解せない。