僕の好きな女性は、悪戯好きだ。幼い頃から彼女には振り回されてばっかり。

「四季子ちゃん遊ぼうか」

「んー遠慮しとく」

青木四季子ちゃん。僕の幼なじみで、初恋歴片想い歴は…5歳の頃からだから…えと、17年か。はは、長いなぁ。僕もう21歳だよ。

…長い、なぁ。

最近四季子ちゃんは他の女の子達や男の子達と遊んでいる。僕とは昔みたいに遊んでない。当たり前か。彼女も僕も成人している。

君は合コンやらサークルやらで毎日が充実してて、僕は頑張って絵を描いている。

昔から僕は絵が好きで、色々な世界を絵に表現してきた。

スカイブルーやエメラルドグリーンをぶちまけた海に太陽をドンと置いて。
そこに、四季子ちゃんが凄く可愛い笑顔でお城を描くという悪戯をしてきた。

そのとき思ったんだ。この子と描く世界は純粋で、突飛で、美しいと。

思えばあれが、僕が画家を志したきっかけだったんだろうな。

「四季子ちゃん。遊ぼうか」

彼女の部屋の前でしゃがみこみ、忠犬よろしく待っていた僕に、四季子ちゃんは嫌そうに顔を歪める。まぁ、お隣さんだし気心の知れる御近所さんだから、おばさんはニコニコと部屋へ案内してくれた。

今どきに染まった君。髪はゆるく巻かれ、可愛いお化粧に露出の高めなキャミにミニスカート。目に毒だな。
もう、僕達の関係は壊れちゃったのかなぁ。

「うちにまでこないでよ。ストーカー」

「ごめんなさい…」

あーあ。もう僕達の関係は終わりなのかなぁ。僕は哀しくて、だけど目的を果たさなければと『それ』をポケットから取り出した。


「僕と、結婚してください」


本当はこのことを言うためだけにここに、四季子ちゃんの前に立ったんだ。

指輪を差し出した僕に、四季子ちゃんはポカーンとしている。そりゃそうか。いきなりだもんね。

「……………」

「…………。駄目?」

首を傾げれば、君はなんとも言えない微妙な表情で嘆息する。

「………相変わらず突飛よね、貴方」

「君だって悪戯したじゃない」

「は?なんのことよ」

「僕の描いた海の絵にお城を描いてたじゃない」

お互い様だろう。そう言ったら、そのときの四季子ちゃんは顔を引きつり、唖然とした。

「…貴方、それどこに描いたか覚えて無いでしょ」

「?画用紙とかじゃないの?」

「全然違うよ!…ったく。あんなこと忘れる貴方って……」

ぶつぶつ言いながら、四季子ちゃんは自室のドアを開けた。そういえば、いつからかお邪魔して無いなぁ。……なんでだっけ?

疑問に思った僕は首を傾げる。だけどすぐにわかった。確かに忘れる僕はどうかしてた。

「あー。思い出した」

「遅い」

「ごめん…」

四季子ちゃんの部屋。真っ白だったはずの壁紙をスカイブルーとエメラルドグリーンがぶちまけられ、真っ赤な太陽が天井いっぱいに描かれ、四季子ちゃんの描いたお城が窓くらいのサイズで描かれいた。

今度こそ本当に思い出した。そうだ。僕は四季子ちゃんの部屋に落書きしたんだ。そして四季子ちゃんがお城を描いた。
『これは私達の新居。ここでたくさん愛を誓うのよ』って。
そして僕達は幼い。けど本気のキスをしたんだ。

「いつお嫁さんにしてくれるのか、ヒヤヒヤしたわよ」

あきれ顔の、大好きな四季子ちゃん。

「最高の悪戯だったね」

あれ以来、怒ったおばさんが部屋に入れてくれなくなったんだ。

「ね。……星矢」

何年ぶりかに、君は僕を呼ぶ。僕は嬉しくて、君を抱き締めた。

「四季子ちゃん。……愛してる」

「ん」






『青色をぶちまけたラクガキのお城』
神野梛様


130217 テーマ「悪戯」


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