化粧ポーチの中のグロスを探す。
上にある物をどかすたびに、ガチャガチャと口紅やら何やらがうるさく音を立てているが、気にしてはいられない。というより、大問題、グロスが見当たらない。
「……にしてもさ、年月って恐ろしいよね」
隣の友人が間の抜けた声で言う。
そして、そう言いながら友人はマスカラを塗りなおしている。こういう時の女の人って、すごく変な顔になると私は思う。私は人前では絶対できない。まぁ、一言でいえば、まぬけ、だ。
「何よ、いきなり。意味分かんない」
「だからさ、結婚の話。あたしらの方が絶対早いよね、って話してたのに。あの子、いきなり結婚します、だよ?知った時、あたし、3秒くらい心臓とまったと思った」
「あ、言っとくけど、あたしは10秒」
あった。探していたグロス。2色のうちどっちにしようか迷っていたら、店員さんにごり押しされて結局2本買ったうちの1本。でも、意外とお気に入り。
「あはは。あんたバカ?そんなの死んじゃうって」
友人はマスカラを塗り終わったらしく、左右からその出来をチェックしている。
「でもなんかほんと、負けた気分」
そう呟いて、私は唇にグロスを塗った。あとは程よく伸ばして……よし、完璧。
グロスをポーチにしまい、さらにポーチを鞄の中へ。あとは髪型のチェック。
「ねぇ、女の幸せって何だと思う?」
鏡を見たまま、友人が私に問うてくる。彼女も髪を直していた。
私は、鏡に背を向ける。
「だから、それを今日、確かめに来たんじゃない」
歩き出す。
コツコツとヒールが音を立てた。
どんなに綺麗に着飾ったとしても、心が満たされない。それは、共に毎日を生きる誰かが私の傍にはいないから、だろうか。
華やかな式の間、綺麗なウエディングドレスに身を纏った昔の友人は、とても幸せそうな顔をしていた。
100628 happy参加作品 お題「しあわせ」